日影規制が緩和されるのは、下のようなケースです。
日影規制の緩和について知りたい人は、日影規制の概要は理解しているでしょう。そのため、この記事では概要は省略し、緩和措置に絞って説明します。
記載されている法律の条文や、在提案されている緩和案など、ある程度専門的な部分まで把握していただけるかと思います。
Contents
日影規制の緩和は、どの法律の条文に書かれているか?
「建築基準法56条の2・第3項」に記載
日影規制の緩和は「建築基準法56条の2・第3項」に書かれています。引用すると以下の通りです。
建築物の敷地が道路、川又は海その他これらに類するものに接する場合、建築物の敷地とこれに接する隣地との高低差が著しい場合その他これらに類する特別の事情がある場合における第一項本文の規定の適用の緩和に関する措置は、政令で定める。
建築基準法第五十六条の二(e-Gov)※3項を参照
要約すると、下のようになります。
- 条件(1)…道路・川・海・その他
- 条件(2)…隣地との高低差が激しい
- 条件(3)…1、2に匹敵する特別な事情
上記の3つの条件のどれかに該当する場合は「緩和措置をどうするかは政令で決める」という内容です。そして、その「政令」というのが、次に書く「建築基準法施行令」のことです。
詳しい条件は「建築基準法施行令135条の12」にある
接する道路の幅などの詳しい条件は「建築基準法施行令135条の12」に書かれています。全文を引用すると長いため、特に重要な部分のみ抜粋して引用します。
一
(中略)
道路、水面、線路敷その他これらに類するものに接する場合においては、
(中略)
幅の二分の一だけ外側にあるものとみなす。
(中略)
幅が十メートルを超えるときは、
(中略)
距離五メートルの線を敷地境界線とみなす。二
(中略)
日影の生ずるものの地盤面
(中略)
より一メートル以上低い場合においては、
(中略)
高低差から一メートルを減じたものの二分の一だけ高い位置にあるものとみなす。
建築基準法施行令第百三十五条の十二(e-Gov)
日影規制が緩和される条件
日影規制が緩和される主な条件は、冒頭にも書いた下の3つのものです。
それぞれ詳しく説明していきます。
道路・川・線路などと接している
隣地が道路・川・線路などの場合、日影になっても大きな影響はありません。もちろん「道路や川の幅による」ので、幅(幅員)によって緩和のルールが変わります。
ルールが変わる境目は「幅員10m」
道路・川・線路などどんな種類のものでも、幅員10mがルールの変わる境目となります。
10m以下 | その道路などの幅員の半分の長さで、隣地境界線を延長できる |
---|---|
10m超 | 幅員に関係なく5m、隣地境界線を延長できる |
どちらも「隣地境界線を延長できる」というのは同じです。その「延長できる長さ」が下のように違います。
- 10m以下…幅員の半分
- 10m超……5m
幅員8mの道路に接していた場合
この場合は「10m以下」の条件に該当します。8mの半分は4mなので、隣地境界線を4m延長可能です。川や線路の場合でも同じです。
幅員12mの川に接していた場合
この場合は「10m超」に該当します。12mの半分は6mですが、10m超のクラスはすべて「5m」となります。このため、隣地境界線を延長できるのは5mのみです。
どの法律の条文に書かれているか?
幅員10mの緩和措置は「建築基準法施行令135条の12・第1項の1号」に書かれています。
(リンク先は、この記事の序盤で該当の条文を要約した段落です)
隣地との高低差が1m以上ある
これは、あなたの建物と隣地の関係が下のようなケースです。
- あなた…低い土地
- 隣地……高い土地
この場合「隣地の日照にあまり配慮しなくていい」というのはわかるでしょう。もちろん配慮は必要ですが「同じ高さの時ほどは配慮しなくていい」ということです。
このケースでどれだけ規制が緩和されるのかというと、下の通りです。
高低差から1mを引いた後、残った高低差を2分の1する
これは具体的な数値を出すとわかりやすいでしょう。たとえば高低差が3mだったとします。すると、下のような計算がなされます。
- 3m-1m=2m
- 2m×2分の1=1m
これで1mという数字が出ますが、あなたの土地が「実際より1m高い位置にある」と見なされます。
このルールは「高低差が縮まる」ものである
おさらいすると、本来あなたの土地と隣地の高低差は3mでした。それが、上記の計算で「実際より1m高い位置」と見なされたことで「高低差=2m」と想定されます。
そして、あなたの土地は「隣地より2m低い場所にある」という想定で、日影の長さの計算をされるのです。


なぜ「緩和措置」なのに不利になるのか
これについては「何もルールがないよりはマシ」という意味で、緩和されていると思ってください。高低差に関するルールがなければ、単純に下のように規制されるからです。
- 役所「あなたと隣地の距離は○mですね?」
- 役所「では、建物の高さは××mまでにしてください」
ここであなたが下のように抗議したとしましょう。
- あなた「ちょと待ってください。うちの土地は5m陥没してるんです」
- あなた「だから、高さも××mより5m高くさせてください」
高い建物を建てたければ、このような抗議をするでしょう。しかし、高低差を考慮しないルールだったら、役所は「いえ。何メートル陥没していようと関係ありません」と言って突っぱねるわけです。
それと比べたら、多少不利な条件になっても「高低差が考慮されるだけマシ」といえます。そのような意味では、一応「緩和措置」と呼べるのです。
参考…高低差が5mだったらどうなるか
実際に上の例で計算してみましょう。計算の流れは以下の通りです。
- 5m-1m=4m
- 4m÷2=2m
これによって、あなたの土地は「実際により2m高い位置にある」と見なされます。5m低い土地が、それより2m高いと見なされるわけです。
よって、あなたの土地は「3m低い土地」と計算されます。このため、建物を高くしていい長さは「3mのみ」となります。
(この3mというのは単純計算で、屋根の角度などによっても変わります)
このルールはどこに書かれているか?
「1m以上の高低差」での緩和措置は「建築基準法施行令135条の12・第1項の2号」に書かれています。
(リンク先の漢数字「二」の部分です)
その他、緩和を認めるのが妥当な状況
3つ目の条件については、かなりアバウトです。わかりやすく言うと「隣地が日影になっても問題がない状態」と考えてください。


(前略)
地形の特殊性により同号の規定をそのまま適用することが著しく不適当であると認めるときは、
(中略)
適当と認める高さに定めることができる。
建築基準法施行令第百三十五条の十二 第二項(e-Gov)※リンク先「2」の部分を参照
要は「明らかに、この状況だったら緩和すべきだろう」という場面では、緩和が認められると考えてください。
日影規制緩和のルールは年々変化している
日影規制の緩和については、ルールが少しずつ変化しています。2017年に提案・審議されたものでも、下のような緩和案があります。
以下、これらの緩和案について説明していきます。
「線路に接する場合」の緩和案
画像引用元:建築基準法における日影規制緩和措置の拡大(線路敷に接する場合)/内閣府・PDF
上の画像は、2017年2月に経団連によって内閣府に提出された規制緩和案です。赤字で書かれているように、下の2点を緩和する案となっています。
- 線路敷の中には、敷地境界線を引かない(線路敷の外とする)
- 駅舎・車庫などの施設には、日影規制をかけない
ただ、上記2点には条件があります。「線路敷の土地所有者の同意が得られた場合」というものです。
線路敷の土地は鉄道会社が持っていることが多くなります。そのため「線路沿いの住民が、鉄道会社に許可を取る」というケースが多くなるといえます。
ただ、中には「地主が鉄道会社に土地を貸している」というケースもあります。その場合は、その地主の許可が必要です。
許可については上の画像にも書かれている通り「承諾料」などの、金銭的なお礼が必要になることも考えられます。
「老朽化したマンション等の建て替え」に対する緩和案
画像引用元:国土交通省・PDFファイル「日影規制について」※P.8「事前に提示された論点への見解(2)」を参照
上の画像は、国土交通省に提出された緩和案と、それに対する同省の回答(見解)です。簡単にいうと、下のような提案がされました。
- 老朽化したマンションや建物は、建て替えないと危険である
- その建て替えが促進されるよう、日影規制を緩和するべきでは?
そして、この提案に対して、国土交通省が下のように答えています。
- それは、地方自治体がそれぞれの条例で決める
- もしくは、特定行政庁がOKと判断したら緩和していい
2つ目の「特定行政庁」については、先に書いた「その他、緩和を認めるのが妥当な状況」の出典である「建築基準法施行令・第135条の12・ 第2項」にも書かれています。
つまり、この緩和案については下のようにいえます。
- 施行令に追加で明記されることはなかった
- しかし、事実上「すでに緩和されている」状態
今後もこのような提案が多くなると、施行令にも明記されるかもしれません。
「都市再生特別地区」での緩和案
画像引用元:国土交通省・PDFファイル「日影規制について」※P.7「事前に提示された論点への見解(1)」を参照
上の画像も「老朽化したマンション」の時と同じ緩和案と、国交省の回答です。提案の内容はそのままで「都市再生特別地区では緩和してもいいのでは?」というものです。
そして、国交省の回答は下のようになります。
- たとえ特別地区でも、周囲の環境を害する恐れがあるなら、一律に緩和はできない
- 現状のルールでも「実際に問題がない」なら、自治体や特定行政庁の裁量でOKとなっている
2つ目については老朽化マンションの時と同様「現時点のルールでも実行可能である」という返答です。
都市再生特別地区とは?
これは「容積率・利用用途・高さ制限などのルールを緩和する」地区です。緩和する目的は地域の活性化(土地の高度利用)のためです。
エリアを決定するのは国ではなく、各都道府県です。具体的には、下のようなエリアが「都市再生特別地区」と指定されています。
(イメージが湧きやすくなるよう、有名な建物で紹介します)
新宿 | 東京モード学園周辺 |
---|---|
渋谷 | 渋谷パルコ・渋谷ヒカリエ周辺 |
銀座 | 三越銀座店周辺 |
これらの建物なら、東京以外の都道府県に住んでいる人でも、何となくイメージできることが多いでしょう。そして、そのエリアであれば「確かにいろんな規制を緩和すべきだ」ということも実感っできるかと思います。
そのような場所では、すでに日影規制も「問題の起きない範囲で緩和できる」ということです。
(この辺は意外と柔軟に運用されていると言っていいでしょう)
まとめ
以上、日影規制の緩和についてまとめてきました。特に重要なポイントは「日影規制は、緩和すべき場面ではすべて緩和される」ということです。
もちろん、申請が常に通るわけではありませんが、それは「申請者の判断がずれていた」という可能性があります。終盤で書いた「老朽化マンション」の例のように、自治体が「緩和すべき」と判断した場面では、法律に明記されていなくても緩和できるのです。
そして、法律に明記されているのは、下の2つの条件です。
- 道路・水面・線路などに接している
- 隣接地との高低差が1m以上ある
これらの条件を満たしていれば「日影規制上、問題のない建物」は建てることができます。しかし、隣人が納得してくれるとは限りません。気が短い隣人だったら「日照権を侵害された」と裁判を起こす可能性もあります。
建築にあたって日影規制を遵守することは当然ですが、トラブルを完全に避けるにはさらにプラスアルファの配慮が必要になる、ということも理解しておきましょう。