家族信託はここ数年、不動産の売却でも徐々に浸透してきました。しかし、まだ新しい仕組みのため「ルールがよくわからない」ということも多いでしょう。
それでも「自分や親が認知症、その他の症状になったときのために家族信託について知っておきたい」という方も多く、このような考え方は重要です。この記事では、こうした方のために「家族信託での不動産売却」について解説していきます。
- 家族信託とは何か
- 家族信託での不動産売却の基本
- 信託受益権の売買
- 家族信託の手続き(登記など)を自分でする方法

家族信託の不動産売却は複雑なので、普通の不動産会社では「訳あり物件」に分類され、対応してもらえないこともあります。このような訳あり物件については、専門的に扱う業者に依頼することが重要です。
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家族信託とは
「家族信託による不動産売却」という絞り込んだテーマについて書く前に、まず「家族信託とは何か」という説明をします。要点をまとめると下の2点です。
以下、それぞれ解説していきます。
家族に財産管理を任せること
家族信託とは「家族に財産管理を任せること」です。家族信託は近年になって使われ始めた言葉なので、国語辞典などでも正式な定義がありません。
しかし、信頼できる不動産会社や弁護士・司法書士などの専門家の説明を一言でまとめると、上記の定義になります。
信託=信用して任せること
信託に関しては、国語辞典の定義が昔からあります。
1 信用して任せること。「国民の信託による政治」
2 他人に財産権の移転などを行い、その者に一定の目的に従って財産の管理・処分をさせること。「遺産の管理運用を銀行に信託する」「信託証書」
コトバンク「信託」
「1」の定義のように、最も広い意味では「信用して任せる」となります。つまり、不動産やお金に限らず「何かの仕事をまかせる」などの内容も含まれるのです。
(1の例でも「国民の信託による政治」というものが書かれていますね)
本来はこういう広い意味なのですが、実際に社会で使われるのはほとんど「2」の「財産がらみ」になります。家族信託もそうですし、株などでよく聞く「投資信託」もそうです。
こういう意味を持つ信託を「家族にまかせる」のが家族信託です。そのため、家族信託の定義は「家族に財産管理を任せること」となります。
(もちろん、庭の草刈りなどを家族信託してもいいのですが、そういう場面でこの単語が使われることはめったにありません)
家族信託での不動産売却の基本
家族信託で不動産を売却する場合、まずは下の基本を抑えておきましょう。
以下、それぞれ詳しく説明していきます。
信託された家族は、自由に物件を売却できる
家族信託された不動産は、その信託された人(受託者)が自由に売却できます。「信じて託された」のだから、何をしてもいいのです。
「何をしても」というと少々語弊がありますが、そのくらいの権利があることを承知の上で、委託者(親・祖父母など)が託したわけです。そのため、不動産の売却は自由にできます。
作成する書類は「家族信託契約書」
家族信託でも当然「書類」を作成します。その書類は「家族信託契約書」です。別に難しい名称ではありません。
- 普通の契約書
- 内容が「家族信託」というだけ
上記のように考えるといいでしょう。たとえば賃貸なら「賃貸契約書」と、内容部分が入れ替わるだけです。要は「ただ契約書を書くだけ」ということです。
契約書に「売却」の項目がないと売れない
そもそも、家族信託は「何でもしていい」わけではありません。あくまで「託された内容のみ」何でもしていいのです。
たとえば「私の不動産を任せます」と契約書に書かれていたとします。しかし「売却は禁止します」と書かれていたら、当然売却はできません。
それと同じように「売却」という項目がないというだけでも、売却をしてはいけないのです。「書かれていない=許可されていない」と裁判所や法務局は判断します。
(なお、ここではわかりやすく「売却の項目」と書きましたが、実際には「売買」の項目となることが多いです。どちらでも売る側にとっては同じ意味です)
家族で信託受益権の売買はできる?
信託受益権の売買について「他人や業者だけでなく、家族に対して売ることもできるのか?」という疑問もあるでしょう。この点について「信託受益権」の説明から順番にすると、下の通りです。
以下、それぞれ解説していきます。
信託受益権とは
信託受益権とは「信託した財産から発生する利益をもらう権利」です。これは不動産より投資信託の方がわかりやすいでしょう。
投資信託の場合
たとえばあなたが「銀行の投資信託」に投資するとします。これは、あなたの資産の運用を「銀行に任せる=信託する」ものです。
さて、これであなたの資産を運用して得た利益は、誰のものになるでしょう。当然「ほとんどはあなた」で、「銀行は手数料として一部をもらう」のみとなります。
ここであなたが「利益をもらう権利」が信託受益権です。
信託受益権は、財産を「託した側」にある権利
上の説明でもわかると思いますが、信託受益権を持つのは「財産を託した人」です。上の例だと「あなた」です。「銀行に財産を託した人」ですね。
不動産の場合「不動産の持ち主」である
ここまでは、株などの投資で例えてきました。これを不動産でいうと「信託受益権を持つ人=不動産の持ち主」です。


「信託受益権を売る」とは
ここまで説明してきたのが「信託受益権」ですが、これを「売る」とはどういうことか、という疑問も湧くでしょう。これは「株を売る」感覚に近いと思ってください。
「投資信託を売る」のと同じ
ここでも投資信託にたとえるとわかりやすいのですが、たとえばあなたが銀行の投資信託に「100万円」預けていたとします。そして、そこから毎年5万円の配当をもらっていたとしましょう。
これを見て「100万円で買いたい」という人は多くいるでしょう。100万円という元手はかかりますが、一度買えば「毎年タダで5万円をもらえる」わけですから。
もちろん「5万円をもらえなくなる」「そもそも、100万円が消滅する」という可能性もあります。後者のわかりやすい例は、世界金融危機や、銀行の倒産などです。
このようなリスクはありますが、そうなる危険性が低いとわかっていれば、上記の「100万円の投資信託」は欲しがる人が必ずいます。そして、あなたがその人に売りつけるわけです。
これが「投資信託を売る」ということです。権利に関していうと「投資信託受益権を売る」といえます。
これを不動産信託に置き換える
上記は「投資信託を売る」ことの説明でした。そして「不動産信託を売る」ことも、これと全く同じです。
- あなたが「1000万円」の不動産を銀行にあずけている
- 銀行がそれを運用して利益を出す(賃貸経営など)
- その利益の大部分があなたのものになる(信託受益)
この、不動産から生まれる「信託受益」の権利をあなたが売る―。これが「不動産信託を売る」ことです。
そして「不動産信託を売る」=「不動産信託受益権を売る」ことです。「信託を売る」という表現はかんたんに説明するためのもので、正確には「受益権=利益をもらえる権利」を売っているためです。


「家族信託受益権を売る」ことも同じ
「家族信託受益権を売る」という行為も、ここまで書いてきた下の2つと同じです。
- 投資信託(受益権)を売る
- 不動産信託(受益権)を売る
何が変わるのかというと「信託する相手」です。
- 投資信託…銀行・投資会社・金融機関・ファンドなど
- 不動産信託…上記+不動産会社など
- 家族信託…家族・親族・親戚
上記のように信託する相手(信託される人)が変わります。しかし、それ以外の「売る」という行為の仕組みは同じです。
信託受益権は「誰に売れる」のか
これは誰に売ってもかまいません。
- 家族
- 同族法人(一族の会社)
- 友人・知人
- 赤の他人(業者含む)
上記のように「誰に売るのも可能」です。しかし、ここで下のような疑問を持つ人もいるでしょう。
家族に信託しているのに、信託受益権を家族に売る?
この疑問は、会話で答えるとわかりやすいでしょう。








ここで、さらに下のような疑問が湧くかと思います。
信託されている人(受託者)には売れる?
上の会話の中で、家族信託の受益権を売ることについて、下のようにまとめました。
- 長男に運用させている投資信託を、
- 次男に売る
登場人物と「やること」を一覧にすると、下の通りです。
- 信託受益権を売る人…親
- 不動産を運用している人(信託されている人)…長男
- 信託受益権を「買う」人…次男
ここで「親は、信託受益権を長男に売ってもいいのか?」という疑問が湧くでしょう。今何もしていない次男ではなく「すでに不動産を運用している長男に売る」ということですね。
売ることは可能だが「無償で譲る」ことの方が多い
結論を言うと、上のケースで長男に売ることは可能です。しかし、どちらかというと「無償で譲る」ことの方が多いでしょう。
というのは、家族信託をするケースというのは「親が認知症になっている」ことが多いためです。つまり、親はお金を稼いでも「どの道自分で使えない」上に「お金を使いたいことも特にない」といえます。
一方、長男は「親の代わりに不動産を管理・運用する」という労働をさせられています。銀行などが投資信託をするときは、当然手数料をもらいます。
しかし、家族信託ではそのような契約がないことがほとんどです。代わりに家族信託では「信託で得られる利益を、すべて受託者に渡す」ことが多くあります。


- たとえば投資信託なら「銀行」が運用する
- その運用益は「親」がもらう
- 銀行は手数料として、少額をもらう
上記が「投資信託」の場合です。これが家族信託になると、下のようなケースが多くなります。
- 子供が、親の不動産を運用する
- その運用益は、本来は「親」がもらう
- しかし、実際には「運用益」を子供が持っていくケースが多い
- 理由(1)…親が認知症のことが多く、お金の使い道がない
- 理由(2)…家族の場合「○○%を手数料にする」という考えより、「出た利益をすべてもらう」方が合っている
もちろん、理由(2)の「その方が合っている」というのは、必ずしもそう決まっているわけではありません。「そう考える家族の方が多いだろう」ということです。


上記のような理由から、
- 家族信託で「信託されている人=受託者(主に子供)」に、
- 「信託受益権を売る」ことはできる
- しかし、実際には売るより「無償で譲る」ことの方が多い
という結論になります。
なお、家族信託も含め、認知症の親の家を売ることについては、下の記事で詳しく解説しています。「認知症の親の実家を売りたい」などのケースでは下の記事も参考にしていただけるかと思います。
家族信託の手続き(登記など)は自分でできる?
家族信託の手続きは、ほとんどのケースで司法書士に依頼します。しかし「司法書士に依頼せずに自分でやることはできないか?」と考えている方もいるでしょう。これについて、ポイントをまとめると下のようになります。
以下、それぞれのポイントについて説明します。
法律的には自分でしても問題ない
家族信託の手続きは「司法書士や弁護士に依頼しなければいけない」などのルールはありません。「自分でやる」のはまったくOKです。
やることは「信託契約書」の作成
家族信託の手続きで「絶対に必要」なことは「信託契約書の作成」です。他の「公正証書にする」などの作業は、極端な話、やらなくてもかまいません。
「公正証書にする」のは、選択に必要ではない
信託契約書は「公正証書にしなければいけない」と思っている人も多くいます。しかし、必ずしも公正証書にする必要はありません。理由は
- 公正証書は「トラブルが起きそうなとき」に作成するもの
- 何もトラブルが起きないなら、作成する必要がない
たとえば家族信託については、下のような流れで作成します。
- 親が「自分もそろそろボケそうだ」と思う
- そして「今のうちに息子に家族信託しておこう」と考える
- 親と息子で「信託契約書」を作成する
そして、親が実際にボケたら、この契約書の内容にしたがって息子が不動産を管理します。さて、このとき「この契約書が本物である」という証明が必要でしょうか。
「疑う相手」がいなければ公正証書は不要
上記の例で「そんな家族信託が本当にあったのか?」と疑う人がいたら、公正証書は必要です。「2020年○月○日に、確かに親子でこのような契約書を作成した」ということを、公証人役場に証明してもらえるためです。
公正証書にすると裁判・売却などで有利になる
公正証書にすると、上記のような「公的機関による証明」ができるため、裁判でも何でも有利になります。このようなケースが想定されるときに、公正証書を組むのです。
不動産を売却する場合も、公正証書があると有利になりやすい
あなたが親の不動産を家族信託されたとします。その不動産を、あなたが「売ろう」と思うこともあるでしょう。
そして、無事に買い手が見つかりました。交渉しているうちに、買い手が「所有者は親である」ということに気づいたとします(というより必ず気づきます)。
すると、このように聞くでしょう。「親御さんはこの売買のことをご存知ですか?」。
なぜこのような質問をするのかというと、下のようなリスクがあるためです。
- 親が知らないところで子供が勝手に売却していたら、その売買は無効になる
- つまり、自分がその物件を買っても取り消しになるなど、トラブルに巻き込まれる
上記のような理由から「この売り手の親御さんは、本当にこの売り手(子供)に、すべて信託しているのか?」ということを確認したいのです。


公正証書は公証役場で作成されるもので、偽造はほぼ不可能です。少なくとも通常の契約書よりは圧倒的に偽造が難しくなります。
このような理由から「不動産の買い手に信頼してもらうため」に、公正証書にするケースが多いのです。
司法書士に任せる方が無難
「自分で家族信託の手続きをする方法」について書くと、まだまだ書くべき内容が多くあります。ここでは書ききれないほどの知識や作業が必要になるため、率直に言っておすすめはできません。
特に不動産を売却する相手が海千山千のプロだった場合、契約書の不備を突かれて「何らかの不利な契約」を結ばされる可能性もあります。このため、よほど自分でやるべき理由がなければ、手続きは司法書士に任せるのがおすすめです。
不動産の売買に関する司法書士の役割や報酬の相場などは下の記事でまとめています。「自分でやること」を考えている方は、一度「司法書士に依頼するとどう良いのか」も調べていただくのがいいでしょう。
まとめ
以上、「家族信託での不動産売却」についてまとめてきました。最後に要点を整理すると下のようになります。
- 家族信託での不動産売却は可能
- 「信託受益権」の売却も可能
- 信託受益権を売る相手は誰でもOK
- 家族信託の手続き(登記など)は自分でもできる
- 基本的に司法書士に依頼する方がいい
家族信託での不動産売却は、専門家に依頼すればそれほど難しいものではありません。多少の費用はかかりますが、かかる労力や時間は極めて小さくなります。
そして、自分や親が認知症になったときに、家族信託はきわめて重要になるものです。このような事態に備えて準備している家庭としていない家庭では、資産運用だけでなく人生全般の安定度で大きな差が出ます。
自分や家族の生活を安定させるため、認知症を含めたどんな事態に遭遇しても問題が起きないようにするために、家族信託がまだの方は、信託を設定することも考えてみるといいでしょう。