「共有持分の不動産があるが、自分の持分を放棄したい」ということもあるでしょう。このとき気になるのは下のような点かと思います。
この記事では、上の3つのポイントに加え、下のような点も解説していきます。
このようにあらゆるテーマで説明していくため、共有持分の放棄についてのあらゆる疑問を、解消していただけるでしょう。
なお、価値のある共有持分であれば、放棄するより売却する方が断然得です。共有持分の買取業者は下の記事で紹介しているため、売却を検討する場合は、ぜひ参考になさってみてください。
Contents
共有持分の放棄のやり方
まず、共有持分を放棄する方法をまとめると、下のような手順になります。
以下、それぞれの手順について解説していきます。
共有者たちに放棄を宣言する
まず、他の共有者たち全員に「共有持分を放棄する」ことを宣言します。ただし、口頭で宣言するだけでは効力が弱くなります。
家族や親族を相手に行うのも気が引けるかもしれませんが、できるだけ内容証明郵便で書面として送るようにしましょう。もちろん、いきなり書面を送ると人間関係が悪化することもあるため、以下のような手順を踏むべきです。
- 最初に口頭で宣言する
- 書面を送るときも、届く前に電話で連絡する
これによって、書面での通達もスムーズに進むでしょう。
OKされたら、共同で「持分権移転登記」をする
他の共有者が放棄を承諾してくれたら、登記に入ります。共有持分の放棄も登記するまでは完了しないのです。
この登記は「持分権移転登記」といいます。ここで重要なのは「登記はあなた1人ではできない」ということです。
登記は全員で共同して行う必要がある
あなたが共有持分を放棄すると、あなたの持ち分が自動的に分割されて、他の共有者のものになります。たとえば3人の共有者がいたら、3等分されて彼らのものになるのです。
このように複数人の共有者がいるなら、彼ら全員とあなたが揃って、登記をしなければいけません。
委任状があれば、全員で法務局に行く必要はない
当然のことながら「全員が揃って」というのは、あくまで「協力する」という意味です。法務局での手続きは「仕事で行けない」ということも、当然あるでしょう。
このような場合は、それぞれのメンバーの委任状があればOKです。また、そもそも法務局に誰も行かなくても「すべて郵送だけで行う」という方法もあります。
どんな方法にしても「共有者全員の協力が必要」ということは理解してください。


拒否されたら「登記請求訴訟」を起こす
もし他の共有者が、あなたが放棄した共有持分について「受け取らない」と言ったらどうするか―。これは「登記請求訴訟」を起こすことになります。
登記請求訴訟とは?
これは「登記に協力しろ」という訴訟です。「登記請求=登記に協力しろ」と訳すとわかりやすいでしょう。
そして「訴訟」というと「負けることがあるのだろうか」という点が気になるでしょう。この点は心配不要です。
訴訟は、先に放棄を宣言した方が必ず勝つ
普通の裁判と違い、この「登記請求訴訟」については、あなたが必ず勝つようにできています。正確には「先に放棄を宣言した人」が勝ちます。
管理者のいない不動産があると、国も困るため
なぜ上のようなルールになるかというと「管理者のいない不動産があると、国や市区町村も困る」からです。つまり、すべての不動産に「所有者がいて、管理人がいなければならない」と国は考えています。
このため、共有者の誰かが先に放棄を宣言したなら「放棄してない奴が引き取れ」と国が命令するわけです。


民法255条のルール
法律的に説明すると、上記のルールは「民法第255条」に規定されています。「持分の放棄及び共有者の死亡」という内容です。
共有者の一人が、その持分を放棄したとき、又は死亡して相続人がないときは、その持分は、他の共有者に帰属する。
Wikibooks「民法第255条」
このように、共有者の放棄や死亡が起きた時点で「自動的に所有権が発生してしまう」のです。このため、他の共有者は必ず、あなたが放棄した分を引き取る義務があります。
登記が終われば、その不動産とは一切関係がない
登記請求訴訟を起こせば、よほどのことがない限り、放棄&登記は無事に完了します。そして、登記まで終われば、あなたとその不動産は一切関係がありません。
固定資産税や管理費などの支払い負担もなくなります。ただし、訴訟まで行くと共有者との人間関係がもつれるので、できれば穏便に話し合いで解決しましょう。
共有持分を放棄するメリット・デメリット
共有持分の放棄について、メリットとデメリットをまとめると下記の通りです。
以下、それぞれ解説していきます。
メリット…手続きの手間がかからない
共有持分を放棄するメリットは「手続きの手間がほとんどかからない」ということです。自分の利益を手放すだけですから、複雑な手続きは要求されません。
共有者に権利を移すための手続きは、最低限必要
一応、あなたの持分を共有者に譲るための手続きが、最低限必要になります。といっても、共有者にとってメリットのある話なら、難航することは少ないでしょう。
そのメリットの度合いによっては「全部まかせた」と言って丸投げしても、共有者は喜んで手続きを行ってくれるはずです。最初からあなたの権利を放棄するわけですから「何か不正行為をされる」という心配もありません。
(もちろん、不正にお金を借りるなどの別の行為にあなたの印鑑などを使われないよう、最低限の注意は必要になります)
このように、ある程度の手続き・注意は必要になります。しかし、共有持分の処分方法の中で「一番かんたんな選択肢」なのは、間違いありません。
デメリット…共有者にただで不動産を渡すことになる
共有持分がどんな不動産であれ、それはいくらかの金銭的価値があります。しかし、それを放棄すればあなたは「価値がある不動産を、共有者にタダで渡す」ことになるわけです。これがデメリットといえばデメリットでしょう。
ただ「もともと不動産にこだわっていない」「大した価値ではない」という場合は、それほどのデメリットでもないかもしれません。このあたりは、個人の価値観やその不動産の価値にもよります。
共有持分の放棄は、農地だとメリットが大きい
一般的に、共有持分を放棄するメリットは「農地だと大きい」といわれます。理由は下の通りです。
- 農地を売る手続きは複雑である
- そのため、共有者に売るときも手間がかかる
- しかし、放棄なら複雑な手続きはない
このため「とにかく複雑な手続きは嫌だ」という人には、農地だと「共有持分を放棄するメリットがある」ということです。
農地を売る手続きは複雑
農地を売る手続きは複雑で手間がかかります。具体的には、下のような制約があります。
- 農地のままでは農家にしか売れない
- 宅地などに転用するには、一定の条件をクリアしなければならない
- クリアして転用する場合も、造成費用がかかる
このように、手続きも、宅地転用のための工事もすべて大変なのです。このようなコストや時間をかけるくらいなら「放棄した方がトータルで得」ということも多くあります。
(こうした農地の売却・転用の方法などについては、下の記事を参考にしていただけたらと思います)
なお、上記の内容をより専門的に書くと、農地を売却するときは「農地法上の許可」が必要になります。しかし、放棄する場合にこの許可はいりません。
共有持分を放棄すると税金はどうなる?
共有持分を放棄すると、税金はどうなるのか気になるでしょう。また、放棄にかかる手数料などの費用もかかるのか―、という点が気になるかと思います。
これについてポイントをまとめると、下の通りです。
以下、それぞれのポイントについて説明します。
受け取る共有者に「贈与税」がかかる
共有持分を放棄すると、それは他の共有者に移ります。ある意味「他の共有者にプレゼントしたようなもの」ですから、贈与とみなされます。
これにより、贈与税が発生します。贈与税は「受け取る側」にかかるものです。あなたが放棄するなら、あなたが払う必要はありません。


登記時に「登録免許税」がかかる
法務局での登記は、どんな手続きでも必ず「登録免許税」がかかります。これは「登記の手数料」です。
不動産の登記はもちろん、法人の設立や解散などの登記でもかかります。こうした他の手続きと同じように、共有持分放棄の登記でも、登録免許税が必要です。
登録免許税はどちらが払ってもいい
登録免許税をどちらが払うかは法律では決まっていません。しかし、大抵は「放棄する側」が払うことになります。
これについては「自分から放棄を言い出して、登記に協力してもらっている」以上、当然と言えるでしょう。
登録免許税の金額は?
これは「1000分の4」です。たとえば、あなたの持分が1000万円だったら、4万円になります。100万円だったら4000円、500万円だったら2万円です。
放棄するほどの不動産なので、評価額もそれほど高くないことが多いでしょう。このため、登録免許税はそれほど高くならないと考えてください。
税金以外の費用は、最低限の雑費のみ
贈与税・登録免許税以外の費用については、最低限の雑費のみとなります。たとえば下のようなものです。
- 郵送費
- 住民票・印鑑証明書などの発行手数料
- 交通費
たまに「印紙税」が挙げられることがありますが、これは放棄の登記では「登録免許税」のことです。登録免許税は現金ではなく収入印紙で払うのですが、その収入印紙の代金を印紙税といいます。
つまり「印紙税=印紙代」ということです。手続きによっては登録免許税とは別になるのですが、共有持分放棄の登記では、両者の違いはありません。
(印紙税が登録免許税と違う手続きは、たとえば法人設立です。この場合、手元に保管する「定款」に印紙を貼りますが、これが印紙税となります)
共有持分を放棄する訴訟
共有持分を放棄する訴訟について、ポイントをまとめると下のようになります。
以下、それぞれ解説していきます。
「登記引取請求」を行う
共有持分を放棄するための訴訟は、先にも書いた通り「共有者が引き取ってくれなかったとき(登記に協力してくれなかったとき)」に行います。このため「登記と引取を請求する」という意味で「登記引取請求」というものを行います。
この呼び名は別名もあり「登記請求訴訟」「登記引取請求訴訟」などと呼ばれることもありますが、意味はすべて同じです。
簡単な訴訟なので短期間で終わる
通常の訴訟と違い、この訴訟はかんたんな内容です。
- あなたは、自分の権利を放棄するだけ
- 共有者は受け取るだけ
- 受け取ることも法律で決まっている
上記のような単純な内容なので、形式的な訴訟だけをして、すぐに決着がつくのです。


弁護士なしでもできるが、相談はした方がいい
上に書いた通り、共有持分放棄の訴訟は簡単です。このため、弁護士なしで行うことも、不可能ではありません。
しかし、よほど法律に強い人でなければ、通常は弁護士が行う作業を自分でやる…というのは難しいでしょう。このため、まずは弁護士に無料相談だけでもしてみることをおすすめします。
(ほとんどの法律事務所は、初回30分程度の無料相談を実施しています)
単独所有権(最後の一人)は放棄できない?
ここまでの内容を読んで、下のような疑問も湧くでしょう。
- 全員が放棄していって、最後の一人の「単独所有」になったら、どうするのか
- 放棄したら、国が引き取るのか
結論をいうと「おそらく放棄できない」となります。横浜市の弁護士事務所「植田法律事務所」が、このテーマを深く掘り下げており、この結論になっていました。箇条書きで説明すると、下記の通りです。
- 法務省が、寄せられた質問に「放棄できない」と回答した
- 一応「国に対して訴訟を起こす」ことは可能
- 共有者が放棄するような土地は、早く放棄すること
- 放棄すべき土地の条件とは?
- 田舎の土地でも、太陽光発電などで使える可能性がある
以下、それぞれ解説していきます。
法務省が、寄せられた質問に「放棄できない」と回答した
植田法律事務所の説明によれば、法務省民事局に過去に寄せられた質問で、「単独所有権は、一方的に放棄できるか?」という内容のものがありました。そして、それに対する法務省の回答は「できない」でした。
資料のデータをまとめると、下記の通りです。
- 登記関係先例
- 昭和41年6月1日付1124号照会
- 昭和41年8月27日付1952号回答
「できない」という一言は、オブラートに包まず明確に「できない」と書かれています。
一応「国に対して訴訟を起こす」ことは可能
裁判は「国に対して起こす」こともできます。過去に消費者金融が「貸金業法改正のやり方に問題があった」として、国を訴えたこともあります。
同じように、登記請求訴訟を国に対して起こすことも可能です。ただ、前例がないため「訴訟をするとどうなるのか」は、植田法律事務所も「不明である」としています。
共有者が放棄するような土地は、早く放棄すること
上のように、他の共有者が全員放棄してしまって「最後の一人」になったら、もうなす術がありません。このため、最後の一人にならないよう、早めに放棄する必要があります。
放棄すべき土地の条件とは?
当然、土地の実情によりますが、主に下のような土地が放棄されやすいものです。
- 傾斜地
- 僻地
- 極小面積地
- 原野
- 土壌汚染のある土地
- 土砂崩れの起きそうな土地
他にも多くのパターンがありますが、こうした土地では「共有持分の放棄によるババ抜き」が起きる可能性があると思ってください。
田舎の土地でも、太陽光発電などで使える可能性がある
上で一覧にしたように、放棄されるような共有不動産は、大抵「田舎の土地」です。建物に問題があっても土地に問題がなければ、解体すれば売れます。
しかし、建物がなくても売れないような不動産は「土地自体に価値がない」のです。そのため、自然とそうした土地は「田舎のもの」になります。
田舎でも、場所によっては太陽光発電などで活用できる可能性もあります。太陽光発電での空地の活用については、下の記事を参考にしていただけたらと思います。
まとめ
以上、共有持分を放棄するやり方や、そのルールについてまとめてきました。最後に要点を整理すると下のようになります。
- 共有持分の放棄は、共有者に宣言するだけでできる
- 法的に成立させるためには、共有者と共同での登記が必要
- 共有者が協力しない場合は、訴訟を起こす
- 訴訟は、先に放棄を宣言した方が勝つようになっている
- そのため、放棄を宣言した時点で、かならず放棄できる
- 放棄が起きると、それを受け取る側が贈与税を払う
共有者全員が放棄したがるような不動産は、これまではそれほど多くありませんでした。しかし、日本の人口減少や高齢化が進み、都市部だけに人口が集中するようになると、今後は田舎でこうした事例が多くなると予想できます。
家族や親族を相手に「貧乏くじ」を押し付けるのは心苦しいと思われるので、できるだけ穏便に話し合い、うまく不動産を処分する方法を考えるようにしましょう。