共有持分の不動産を所有している場合、それを賃貸に出せるのかどうか気になることも多いでしょう。結論は「共有持分の過半数を持っていれば可能」となります。
ただ、物件によって賃貸に出せる年数の制限があり、賃貸契約の更新についても一定の規制があるため注意が必要です。この記事ではこれらの点も含めて、共有持分の不動産を賃貸に出すときに知るべきポイントをまとめます。
共有持分の不動産を賃貸で活用することを検討している方には、特に参考にしていただけるでしょう。
Contents
共有持分の不動産は賃貸に出せる?
共有持分の物件を賃貸に出すことについて、ルールをまとめると下のようになります。
以下、それぞれのルールについて解説していきます。
持分の過半数があれば出せる
共有持分の過半数を占めていれば、少数派の共有者の同意がなくても賃貸に出せます。ここで重要なのは、過半数というのは「人数」ではないということです。
あくまで「割合」なので、たった1人でも共有持分の過半数を占めていれば、残りの共有者全員の許可なしで、物件を賃貸に出すことができます。逆に人数がどれだけ多くても、合計の共有持分が過半数を占めていなければ、相手側(過半数側)の許可なく賃貸に出すことはできません。
「土地は5年まで、建物は3年まで」という条件
許可なしで賃貸に出すには、年数の制限があります。
- 山林…10年以内
- 土地…5年以内
- 建物…3年以内
上記のような条件です。山林を賃貸に出すことは少ないので、特に重要なのは土地5年、建物3年という部分でしょう。
建物は、戸建住宅だけでなくアパート・マンション・ビル・店舗などあらゆる建造物が含まれます。


それ以上の期間は共有者全員の同意が必要
上記の期間を超えて賃貸する場合は、共有者全員の同意が必要となります。手続きに共有者全員が同席する必要はありません。
本人が実印を押した委任状と印鑑証明書があれば、それで手続きは可能です(もちろん偽造は許されません)。
「短期間の契約を繰り返す」ことには、明確なルールがない
ここまで説明した期限について「3年や5年の賃貸を繰り返したらどうか」と思うかもしれません。これについては明確な規定がないのが実情です。
弁護士のブログでも「繰り返しの契約はOKです」と書かれていることがあります。一方、「繰り返すなら長期間の賃貸と事実上同じである」と主張する弁護士もいます。
- 長期間の賃貸(許可なし)は、法律上明確にNGである
- 短期の賃貸を繰り返すのは、実質長期間の賃貸である
- よって、これは法的にNGである
上記の主張はある程度正当性があります。明確なルールは決まっていなくても、筆者としては後者の主張(許可なく繰り返すのは不可)が正しいと感じます。
どちらにしても、繰り返す場合は「共有者全員の許可をとるのが無難」といえるでしょう。
なぜ持分の過半数で賃貸に出せるのか
物件を賃貸に出すという重要な行為を、なぜ過半数程度で決められるのか、と疑問に思う人もいるでしょう。この理由をまとめると下の2点です。
以下、それぞれ詳しく解説していきます。
共有物の「管理行為」にあたるため(民法252条)
民法の252条では下のように規定されています。
共有物の管理に関する事項は、前条の場合を除き、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。
民法第252条(WIKI BOOKS)
簡単にいうと「管理行為」だったら過半数で決定していい、ということです。ここで気になるのは「管理行為とは何か」という点でしょう。
管理行為とは
管理行為とは「財産の状態を変えずに利用・改良する行為」です。財産の状態を変えないというのは、不動産でいうとリフォームなどをしないということを指します。もちろん売却などもしません。
辞書では下のように定義されています。
財産を現状において維持し、また、財産の性質を変更しない範囲で利用・改良を目的とする行為。保存行為・利用行為・改良行為がある。
コトバンク「管理行為」
上の説明の通り、管理行為には3通りあります。それぞれの大まかな内容を一覧にすると、下の通りです。
保存行為 | 抵当権の解除など、明らかに物件の価値を保つのにプラスとなる行為 |
---|---|
利用行為 | 賃貸に出すなど、物件の状態を変更しないで利用する行為 |
改良行為 | 共用部の破損部分を修復するなど、元の形を変えない行為で、明らかに財産のプラスとなる行為 |
いずれにしても財産にとってマイナスになることはなく、他の共有者にとっても不利なことはないわけです。そのため、共有持分の過半数があれば、管理行為はしていいというルールになっています。
期間は「民法602条」に書かれている
続いて「建物で3年、土地で5年」という期間のルールですが、これは民法の602条に書かれています。
樹木の栽植又は伐採を目的とする山林の賃貸借 十年
前号に掲げる賃貸借以外の土地の賃貸借 五年
建物の賃貸借 三年
動産の賃貸借 六箇月
民法第602条(WIKIBOOKS)
言葉が難しいですが、簡単に書くと下のようになります。
- 山林…10年
- 土地…5年
- 建物…3年
- 動産…6ヶ月
動産とは不動産以外の財産すべてです。たとえば車や家財道具などが代表的なものですが、現金や株券などもすべて動産となります。
そうしたものを誰かと共有していた場合、半分以上の共有持分があったとしても、無断で誰かに賃貸していいのは6ヶ月までということです。
持分の過半数があれば、共有者に連絡しなくてもいいのか
ここまでの内容を読んで「持分の半分以上があれば共有者の許可が不要なのはわかる」「しかし、連絡すらしなくてもいいのだろうか」という点を疑問に思うこともあるでしょう。これについて、ポイントをまとめると下のようになります。
- 連絡をしなくても違法になることはない
- しかし、連絡はすべきだし、反対されていたら話し合うべき
- 「過半数で賃貸に出していい」ということも、法律で決まっているわけではない
- 過半数で「賃貸を解除していい」ことには、法律はないものの判例がある
以下、それぞれのポイントについて詳しく解説していきます。
連絡をしなくても違法になることはない
ここまで書いてきた通り、過半数以上の共有持分の所有者が「他の共有者に連絡してから賃貸に出さなければいけない」というルールは、法律には書かれていません。ということは、「連絡なしで賃貸に出していい」と考えられます。


しかし、連絡はすべきだし、反対されていたら話し合うべき
上記のように「連絡しなければいけない」というルールはないのですが、代わりに「連絡しなくていい」というルールもありません。おのため、連絡だけは最低限すべきといえます。
また、少数派の共有者が反対しているのであれば、よく話し合って合意してから賃貸に出すべきでしょう。その方が物件の利用者のためでもあります。
「過半数で賃貸に出していい」ということも、法律で決まっているわけではない
上に書いた通り「過半数の持分があれば自由に賃貸に出せる」という法律はありません。そして、最高裁の判例などもないのが現状です。
司法の分野では、どの法律にも明記されていないルールについては、最高裁判決を参考とします。「最高裁がこう判断したのなら、事実上法律はこうなっている」と考えるわけです。
しかし、共有持分の賃貸契約の権利については、そのような判例もないため、弁護士・司法書士・行政書士などの専門家でも明確な答えが出せない状態です。
過半数で「賃貸を解除していい」ことには、法律はないものの判例がある
過半数で「賃貸に出していい」ということについては、法律も判例もありません。しかし「賃貸契約を解除していい」ということについては、法律はないものの判例があります。
賃貸借契約の「締結」は判例がないのに「解除」のみ判例があるのはなぜでしょうか―。これは「物件の使用権が共有者全員の手元に戻って来る」ためです。
賃貸に出している間、物件の所有者たちには「使用権」がありません。これは権利の一部が欠けた状態といえます。
その状態が解消され「権利が完全なものになる」というのが、賃貸借契約の解除です。契約が終わる分家賃収入もなくなりますが、財産の本来の権利は回復します。
このため「解除」は「締結」よりも共有持分に関するルールがゆるくなっているわけです。
過半数未満の共有者が訴訟を起こしたらどうなるか
「勝手に賃貸に出してもいい」ということを書いてきましたが、「もし少数派が訴訟を起こしたらどうなるか」という点が気になるかもしれません。この点についてポイントをまとめると下のようになります。
以下、それぞれのポイントについて詳しく解説していきます。
原則問題ない(賃貸に出した過半数側が勝つ)
ここまで書いた通り、法律的には共有持分の過半数があれば、不動産を賃貸に出すことはまったく問題ないわけです。このため、連絡なしで賃貸に出しても裁判で負けることはほぼありません。
しかし、物件の借主のためにも事前に共有者と話し合うべき
ただ、やはりこのようなトラブルが起きること自体が厄介なものです。物件の借り手も心配になって他の物件に移るなどの可能性が高いでしょう。
そのため、こうした質問に対するWEB上の弁護士回答を見ても「法的には問題ないが、少数派の合意はとっておいた方が無難」という意見が多数を占めています。身近な例では「ご近所の人を無視せずに挨拶する」など、法律では決まっていなくてもやっておいた方がいい、ということは多いわけです。
共有持分の賃貸でも「法律に規定されていないことでも、無用のトラブルを避けるためにやった方がいいことはある」と思ってください。
家賃収入の割合はどうなるか
共有持分の物件を賃貸に出すときも、当然家賃や地代による収入があります。こうした家賃・地代収入をどう分割すべきかも気になる点でしょう。この点についてポイントをまとめると下のようになります。
以下、それぞれ詳しく解説していきます。
原則、持分割合がそのまま適用される
たとえば不動産を2人で共有していて、持分割合が6:4だったとしましょう。その場合、家賃や地代による収益も6:4で分配されます。このルールはシンプルなので納得しやすいでしょう。
共有者の合意があれば、割合を変えてもいい
ただ、上記の比率は「何も決めていない場合の原則」であり、話し合いによって決めればどんな割合でもOKとなります。1:9でも8:2でも、どんな割合でもいいのです。もちろん10:0でもOKです。
比率が変わる特に大きな要素としては「管理業務に対する報酬」でしょう。物件を賃貸に出せば、当然最低限の管理業務があります。
不動産会社などに管理を任せるにしても、その会社と連絡を取り合うなどの業務はあるわけです。また、大家の立ち会いが必要な場面などは出向かなければなりません。
こうした業務に対する報酬として、何割かを管理者に回すことは当然です。大抵の共有者はこれに納得してくれるでしょう。
どうしても共有者が譲歩しないというなら、弁護士などを間に立てて調停をする必要があります。あるいは、自分が譲歩することが必要です。
共有持分の賃貸にかかる税金・費用一覧
共有持分を賃貸に出す時に発生する税金は、一覧にすると下記の通りです。
以下、それぞれの税金について解説していきます。
所得税・住民税
所得税・住民税は賃料収入に対してかかります。賃料収入に直接かかるわけではなく、下のような流れで課税されます。
- 他の給与所得・事業所得と合算する
- そのトータルの所得金額に対して課税する
たとえばあなたが個人事業主や会社経営者で、本業で大きな赤字を出していたとしましょう。これで賃料収入が吹き飛んでしまう場合は、非課税となります(所得ゼロなら税金はかかりません)。
サラリーマンの給与所得については、赤字になるということがないので、この場合はほぼ確定に税金が発生するといえます。確定申告方法については、通常の方法と変わりません。
固定資産税
固定資産税は不動産の所有者に対してかかります。共有持ち分けの場合は「共有代表者」にかかるものです。
たとえば持ち分け割合が5:5だったとしても、代表者として届け出されているどちらか片方に課税通知書が届きます。その人が固定資産税の全額を支払うということです。
ただ、これは役所のルール上そうなっているということであり、実際には持ち分け割合に応じてそれぞれがお金を出すのが普通です。共有者Aが全額支払ったあと、共有者Bが自分の分をAに対して払うというやり方をします。
共有者Bがこの義務を逃れることはできません。都道府県や市区町村からの通知が来ないだけで、Bも納税義務者だからです。「連帯納税義務者」というもので、この義務を怠っている場合、共有者Aに訴えられたら裁判で負けることになります。
上のように書いたものの、固定資産税はそれほど高いものではありません。特に共有持分なら1人当たりの金額はさらに小さくなるので、それほど大きなトラブルにはならないでしょう(特殊なケースを除けば)。
消費税
消費税が発生するのは、下の条件を満たしたときです。
- 賃料収入(売上)が1000万円を超えた
- それから2年が経過した
不動産の賃貸でもその他の事業でも、売上が1000万円を超えるまでは消費税の徴収義務がありません。また、超えたあとも2年間は免除されます。
そして、共有持分の賃貸で年間の売上が1000万円を超えるということはなかなかないでしょう。たとえば6:4であなたが過半数を持っていても、共有者も含めた売上が年間1700万円程度あるということだからです。
単純計算で、1カ月160万円程度の家賃・地代をとっていることになります。ビルやアパートを一棟まるごと賃貸しているなどのケースを除けば、これほどの売上が出ることはないでしょう。
そのため、消費税については一般的には心配する必要がありません。逆に消費税の心配が必要になるレベルなら、事業の規模からいっても税理士などのプロに相談するべきです。
管理代行業者費用
共有持分に限らず、賃貸経営をするときは物件の管理に大きな手間がかかります。それをこなす時間やスキルがない場合は、代行業者を利用するのがいいでしょう。
その場合は、その業者に代行を依頼するための費用がかかります。その相場ですが「1㎡あたり」の金額が、主な会社の「最高値・最安値」で、下のようになっています。
・長谷工コミュニティ…208円
・日本ハウズイング…276円
・差額…約70円
どんな会社なら失敗しない?マンション管理会社を比較する8つの基準と、費用・コスパを比べる3つの知識(マンション管理プランナー)
一般的なマンションは3LDKで70㎡です。それで計算すると、下のようになります。
長谷工コミュニティ | 14,560円 |
---|---|
日本ハウズイング | 19,320円 |
つまり、月額1万5000円~2万円程度ということです。これは大手の「最高値・最安値」の例なので、実際にはこの中間になることが多いと考えていいでしょう。
共有持分物件の活用・管理についての4つのポイント
共有持分の不動産は、賃貸に出す以外にもさまざまな活用・管理の方法があります。ここではそれらの方法について、4つのポイントを解説していきます。ポイントを一覧にすると下の通りです。
以下、それぞれのポイントについて詳しく解説していきます。
売却
共有持分の売却は、賃貸と違って「所有者全員の合意が必要」です。これは誰でも一般的な感覚で理解できるでしょう。たとえ過半数の共有持分を持っていても「勝手に売る」ことができないのは明白です。
法律的に説明すると、売却は「変更行為」となります。賃貸は「管理行為」です。売却が何を変更しているかというと「所有権」といえます。


賃貸は使用権を変更しているわけですが、下のような理由で他の共有者の不利益にならないため、「管理行為」に分類されます。
- 所有権は変わらない
- 賃貸期間も短期である(家屋なら3年以内など)
- 賃貸なのでリフォームなどの変更もされない
- 共有者にも家賃収入が入る
最後のポイントは特に重要で「物件を眠らせておくより、何らかの収益が発生する方が共有者にとってもいいだろう」ということです。もちろん「変な人が住んで、物件を汚されたら困る」という考え方もあるでしょう。
これは3つ目に書いた「リフォームなどの変更もされない」という点を、入居者がどこまで守ってくれるかです。この点については、入居者には原状回復義務(あるいは維持する義務)がありますし、入居者にお金さえあれば問題ありません。(お金がある限り、裁判などで払わせることができます)
逆にお金がない場合は貸主の側が泣き寝入りするしかありません。そのため、賃貸ではある程度厳しい審査があるわけです。このように多少のリスクはあるものの、全体的に賃貸は「他の共有者の不利益にはならない」と判断できるので、管理行為となります。
なお、共有持分の売却について詳しく知りたい方は、下の記事を参考にしていただけたらと思います。
また、実際に共有持分の売却(買取り)に対応している業者を知りたい場合、下の記事をご覧ください。
抵当権抹消
共有持分の物件に金融機関からの抵当がついていることもあるでしょう。代表的なものは住宅ローンです。
この抹消手続きは共有者のうち誰か1人でできます。他の共有者の同意や委任状などはすべて不要で、極端な話「連絡も何もせず、1人で勝手にやっていい」ということです。
これは法律的には、抵当権抹消が「保存行為」にあたるためです。保存行為とは「物件の価値を保つ行為」を指します。
抵当に入っている状態は、「借金のカタに入れられている状態」です。当然これは、物件の価値を落とすものといえます。それを解消するのは、物件の共有者全員にとって良いことといえます。
このため、他の共有者の許可がなくても、勝手に1人で手続きをしていいのです。詳しくは下の記事にまとめています。
共有物分割訴訟
共有物分割訴訟とは、財産を「共有」ではなく「分割」にすることを求める訴訟です。共有と分割の違いは下のようになります。
- 共有…1つの土地の所有権を分け合う
- 分割…1つの土地を別々の土地に「分筆」して、複数の土地として分ける
共有持分の状態を維持する場合「共有」の方に入ります。また、上記では「土地」と書きましたが、これはわかりやすくしたものです。分割できるものであれば、何でも「共有物分割」をできます。
建物などはそのまま分割できないため「売却代金を分割する」などの方法を取ることが必要です。このような点も含め、共有物分割訴訟については下の記事を参考にしていただけたらと思います。
買取業者の選び方
共有持分の不動産の買い取りは、不動産業者にとって少々難しい案件になります。そのため、通常の物件よりは買取業者が減りますが、対応している業者もそれなりに存在するものです。
共有持分の買取業者の選び方については下の記事で詳しくまとめています。
まとめ
以上、共有持分の不動産を賃貸に出すことについて、そのルールや関連知識をまとめてきました。最後に要点を整理すると、下のようになります。