親が亡くなって、親が持っていた土地を相続することはしばしばあります。そのとき「土地の名義変更のルール」が気になることも多いでしょう。
- 名義変更は必須なのか
- いつまでにするのか
- しないと罰則があるのか
上記のような点が特に気になるかと思います。この記事ではこれらの疑問への答えを中心に、親が亡くなった場合の土地の名義変更について見ていきましょう。
- 亡くなった親の土地の名義変更は必要なのか
- 登記手続きの費用はいくらかかるのか
- 必要な書類は何か
Contents
亡くなった親の土地は名義変更が必要?
まず一番気になるのは「亡くなった親の土地は名義変更をしなければいけないのか」という点でしょう。これについてポイントをまとめると下のようになります。
以下、それぞれのポイントについて説明します。
期限は特にない
亡くなった親の土地の名義変更については「いつまでにやらなければいけない」という期限が特にありません。極端な話「気が向いたときにやればいい」のです。


つまり、一応期限はないものの「早めに名義変更をした方がいい」わけです。
名義変更をしないで放置するとどうなる?
まず、上に書いた通り罰則はありません。そのため、実際に放置してしまう人も多くいます。
ただ、その場合によく起こる問題は「次の相続」です。箇条書きで説明します。
- あなたの親が亡くなる
- あなたと、あなたの兄弟がその相続権を持つ
- しかし、名義変更をせずに数年放置した
- その間に弟が死んでしまった
- 弟の遺族が相続に絡んできた
こうなると、少々やっかいです。この理由を説明します。
放置中に「次の相続」が発生すると厄介な理由
これは主に下の2点です。
- 手続きの必要書類が多くなる
- 「新たな遺族」が非協力的な恐れがある
1つ目の「書類が多くなる」というのはわかるでしょう。1回目の相続を放置した分「書類が溜まっている」わけです。
トータルでの量は変わらないのですが「溜め込んだ分、1回で処理しなければいけない」というのが大変になります(日常生活でもよく見られるパターンです)。
2つ目の「新たな遺族が非協力的」という点について説明します。
新たな遺族と「相続争い」が起きる可能性がある
たとえば先ほどの例で「弟が生きていた」としたら、相続争いは少し起きにくくなります。実の兄弟でも相続争いはしばしば見られますが、「血のつながっていない他人」よりは少ないものです。
一方「弟の遺族」となると、一応親族ですが血はつながっていません。血縁関係という点では「赤の他人」です。
そうなると、相続争いが起きやすくなります。必ずしも起きるとは限りませんが、1回目の相続より起きやすいのは確かといえるでしょう。
後のトラブルを避けるために早めの名義変更を
上記のように、亡くなった親の土地の名義変更をしないままでいると、後々トラブルが起きる可能性があります。また、トラブルが起きなくても書類が増えるなど、確実に「手間」は増えるものです。
こうしたデメリットを発生させないよう、親がなくなったら土地の名義変更を早めにするようにしましょう。
手続き・登記の費用はいくらかかる?
親が亡くなって土地の名義変更をすると、いくらかかるのかという点も気になるでしょう。実は、この金額は司法書士に依頼せず「自分でやる」なら、ほぼ0円です。内訳は下のようになります。
費用がかかるとしたら「司法書士報酬のみ」といってもいいでしょう。以下、それぞれの費用について解説していきます。
登録免許税…無料(免税)
登録免許税は、相続ではかかりません。以前はかかりましたが、2018年4月1日~2021年3月31日までの3年間は無料となりました。


相続でなく生前贈与だと、登録免許税がかかる
相続は「死亡した後」の手続きです。これが「生きているうち」に行う生前贈与だと、登録免許税がかかります。同じ「親から子へ財産を譲る」という行為であっても、相続と生前贈与では課税のルールが違うのです。
生前贈与では土地の「0.4%」
生前贈与も含めて、本来の名義変更手続きでは、「土地の価額の0.4%」という登録免許税がかかります。正式には0.4%という数字ではなく「1000分の4」という分数で記載されますが、意味は同じです。
1000分の4ということは「1000万円で4万円」ということ。そして、100万円で4,000円です。この2つの数値を覚えておくと、計算がしやすいでしょう。
何にしても、親が亡くなった場合の土地の名義変更ではこの登録免許税がかからないので、計算方法も気にする必要はありません。
登記簿取得費用…600円
名義変更の手続きには、土地の登記簿が必要です。これは取得方法によって値段がやや変動しますが、一番高くて600円です。
- 郵送で請求…600円
- オンラインで請求&郵送…500円
- オンラインで請求&窓口で受け取り…480円
上記のように480円~600円となりますが、大きな違いではないので「600円」と思っておくといいでしょう。


司法書士報酬…5万円程度
名義変更の手続きは素人では難しいため、司法書士に依頼するケースが多いもの。その司法書士の報酬ですが、土地の名義変更では「5万円程度」が相場となっています。
ただ、これは依頼する事務所によって異なるため、詳しい金額は最寄りの司法書士事務所のホームページを検索してチェックしてみてください。また、司法書士の報酬や依頼できる内容については、下の記事でも詳しく解説しています。
親の土地を相続し、名義変更するときの必要書類・一覧
亡くなった親の土地を相続し、名義変更をするときに必要な書類は下の通りです。
以下、それぞれの書類について解説していきます。
親の戸籍(出生から死亡まで)
親の戸籍は「生まれてから亡くなるまで」のものが必要です。具体的には下の3つになります。
- 戸籍謄本
- 除籍謄本(亡くなったことがわかる戸籍謄本)
- 改製原戸籍(戸籍が途中で変わった場合、その途中のものすべて)
改製原戸籍については、親の世代の場合は大抵あります。生きている間に「戸籍が手書きからコンピューター入力に変わった」など、多くの変化があるためです。
また、親個人の結婚などのイベントによっても、戸籍が変わっています。結婚して新しい世帯を持つ場合、男女ともに戸籍が変わるのが一般的です。
何にしても、このように「親が生まれてから死ぬまでに関わったすべての戸籍」が必要になります。
親の住民票(除票)
これは本来普通の住民票ですが、親が亡くなっている時点で「除票」というものになっています。住民票ではあるものの「この方は亡くなりました=もう住民ではありません」ということが書かれている住民票です。
これも除籍謄本と並んで「亡くなったことの証明書」として必要になります。

自分の戸籍謄本
正確には「法定相続人全員のもの」が必要です。法定相続人とは、主なパターンでは「配偶者・子ども」です。
配偶者がいなければ「子どもだけ、子どももいなければ「親・兄弟」など、法定相続人は状況によって変わります。しかし、一定のルールによって決められるものです。
何にしても、この「相続する側の戸籍謄本」をすべて揃えます。
自分の住民票
これは「いつもの住民票」です。ここでも「自分の」と書いていますが、法定相続人全員の分を提出します。
固定資産評価証明書
これは「登録免許税を計算するためのもの」です。しかし、2018年4月1日からの3年間は「相続には登録免許税がかからない」というルールになるので、必要ない可能性もあります。
ただ、これまで長年必要だった書類ですから、今後も必要になる可能性が高いと思った方がいいでしょう。
土地を相続するなら、一度は発行しておくべき書類
これから名義変更をして土地を相続するのであれば、この書類(固定資産評価証明書)は、一度は取得しておくべき書類です。理由は「毎年これを元に固定資産税が計算される」ことにあります。
土地があなた名義になって固定資産税がかかるようになると、毎年その通知書が役所から届きます。それで一応「今年の評価額はいくらか」がわかります。
しかし、これとは別にあなたの財産証明が必要なケースでは、自分で固定資産評価証明書を取得しなければなりません(必要ないときもありますが、必要なケースが多くあります)。
たとえば「その土地を担保にしてお金を借りる」などですが、このようなケースに備えて、取得の方法を知っておく方がいいのです。


固定資産評価証明書はどこでもらえる?
これは「土地がある市町村の役場」です。特に重要なのは下の2点といえます。
- 「自分が住んでいる市町村」ではない
- 「区」の場合は、ほとんどは「市税事務所」に行く
まず、多くの人が最初に迷うのは「自分が住んでいる市町村か、土地がある市町村か」でしょう。同じエリアにあれば問題ありませんが、違うと悩むかと思います。この結論は上に書いた通り「土地がある方」です。
「区役所」ではほぼ発行しない
市の中に「区」がある自治体も多くあります。たとえば名古屋市・札幌市などですが、これらはほとんどの場合「市税事務所」に行きます。区役所ではないので注意してください。
(例外的に区役所で対応している市もあるかもしれませんが、少数派のケースです)
東京23区は「都税事務所」
東京23区は少々ルールが変わっていて「市」ではなく「都」の税事務所になります。名古屋市だったら「名古屋市税事務所」ではなく「愛知県税事務所」に行くようなものです。


このようなルールなので、たとえば中央区の土地の証明書をもらいたい場合、中央区の都税事務所はもちろん、新宿区・豊島区などの都税事務所に行ってもいいわけです。
相続関係説明図
相続関係説明図は、文字通り「相続の関係がどのようになっているか、説明する図」です。ドラマやアニメなどの「人物相関図」のようなものと考えるとわかりやすいでしょう。
これを提出する理由は「名義変更をしようとしているその人が、どのような関係で相続人になっているのか」を、法務局の人が把握するためです。そして、この説明図が正しいかどうかは、戸籍謄本や住民票によって判断します。
委任状
委任状は「○○の手続きを、この人に任せました」という書類です。普段使うことも多いので、多くの人が知っているでしょう。
親が亡くなった場合の土地の名義変更では、下の2種類の委任状が主に使われます。
- 他の兄弟が1人の兄弟に手続きを任せる委任状
- 兄弟たち全員が、司法書士などの専門家に任せる委任状
前者はよくあるパターンです。兄弟の間で信頼関係があれば「一番手続きが得意な人が行く」というパターンが多いでしょう。また、2つ目も「そもそも専門家に任せた方が楽」という家族が多いので、やはり多く見られます。
どちらにしても「家族・他人に関係なく、誰かに手続きを任せるときは委任状が必要になる」と思ってください。誰も&誰にも任せない場合、委任状は不要です。
親の死亡後の不動産の名義変更・よくある質問
親が亡くなった後の不動産の名義変更について、よくある質問をまとめると下のようになります。
以下、それぞれの疑問に答えていきます。
親名義のまま売却できる?
これはできません。親が生きていれば「委任状」によってできますが、親が亡くなった後では不可能です。
「親名義のまま売る」必要がない
そもそも、親が亡くなったのであれば「親名義のまま売る」という必要がありません。理由は「相続によって自分名義になるため」です。


「名義変更をしないまま放置している」人でも、相続税がかかるケースではしっかり納税しているケースがほとんどです。納税していない人もいますが、それは後ほど延滞税などを加算されます。


親名義のままでの土地・不動産の売却については下の記事で詳しく解説しています。
兄弟で共有名義にした後の売却のやり方は?
親が亡くなって土地を相続するとき、兄弟での共有名義(共有持分)にすることも多いでしょう。このあとで「自分の持分をどのように売却すればいいか」という点も気になるかと思います。
この点については、下の記事を参考になさってみて下さい。
共有名義の土地を賃貸に出せる?
上の段落では「共有持分の売却」について書きましたが「賃貸に出せるか」という点が気になる人もいるでしょう。結論をいうと「持分の過半数があれば可能」となります。
「共有者の人数の過半数」ではなく、あくまで「不動産全体の半分以上」を持っている必要があります。極端な話、土地なら「1人で51%の面積」を持っていれば、賃貸に出すことが可能です。
この点について詳しく知りたい場合、下の記事をご覧ください。
親が認知症だと、生前贈与や売却はできない?
親が亡くなる前に、土地や建物を処分しておきたいと思うこともあるでしょう。子どもたちに対して生前贈与をする、売却するなどの処分です。
しかし「親が認知症でもこれらの手続きができるのか?」という点が気になるかと思います。結論をいうと下の方法で可能です。
- 家庭裁判所から成年後見人を指名してもらう
- その成年後見人に贈与・売却の許可をもらう
これで成年後見人が許可すればOKです。親が認知症であることを知っていて、勝手に委任状を自分(子ども)が作成し、贈与や売却をしたとなると、それがバレたときに問題が起きます。
親が認知症の場合の土地・建物の売却については、下の記事をご覧ください。
親が孤独死した家は、更地にしても事故物件になる?
高齢で一人暮らしをしていた親が孤独死・突然死をしてしまい、それで家屋が事故物件になってしまった、という話もよく聞かれます。このとき気になる点の1つは「家を取り壊して更地にしても、その土地が事故物件になるのか」という点でしょう。
建物より大分マシになるが、一応説明責任はある
結論を書くと「一応、軽度の事故物件」となります。そもそも事故物件というのは正式な用語ではなく「告知義務のある物件」が事故物件とされるのです。
建物を解体しても、前の所有者がそこで亡くなったことについては、告知義務があります。この義務がある時点で、更地にしても「事故物件」なのです。
ただ、買い手の心理としては「大分マシ」になります。そのため「軽度の事故物件になる」といえるでしょう。
なお、事故物件は専門の買取業者に買い取り・仲介してもらうのがベストです。事故物件の買取業者については下の記事で詳しく解説しています。
まとめ
以上、亡くなった親の土地の名義変更について解説してきました。最後にポイントをまとめると、下のようになります。
- 特に期限はない
- 極端な話「ずっとやらない」でもOK
- しかし、それだと後々問題が起きる
- たとえば「次の相続で混乱する」など
- そのため、早めに手続きをするべき
- 手続きの費用はほぼかからない(司法書士報酬は5万円ほど)
- 自分でもできるが、司法書士に任せる方がいい
亡くなった親の土地の名義変更に限らず「期限が特にない」という仕事は多いものです。しかし、そのようなものでも放置しておくとずっと頭のどこかに引っかかっており、何をやるにしても100%の集中をしにくくなるでしょう。
常に目の前の生活に集中できるよう、このような仕事は早めに処理するようにしたいものです。