農地を売却するとき、税金について下のような疑問を持つことは多いでしょう。
- どんな税金がかかるのか
- どのように計算するのか
- 農地のための控除などはあるのか
それぞれ結論を書くと、下のようになります。
この記事では上記の3点も含め、農地の売却でかかる税金について解説していきます。これから農地を売却しようとしている場合、その後の税金の計算や納税をスムーズにする上で、きっとお役に立てるでしょう。

農地の売却は対応できる不動産会社が少ないため、とても難しいもの。しかし、イエイの一括査定なら農地売買にも対応している業者が多いため、売却がしやすくなります。
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Contents
農地の売却でかかる税金・3種類
農地売却でかかる税金は下の3種類です。
以下、それぞれの税金について詳しく解説していきます。
所得税(譲渡所得税)
農地の売却でかかる税金で、一番大きいのは所得税です。正式には「譲渡所得税」といいます。
譲渡所得税の税率は、簡単にいうと「15%・30%」のいずれかです。これは「長期譲渡・短期譲渡」によって分かれます。
- 長期譲渡…15%
- 短期譲渡…30%
上記のような税率です。長期譲渡・短期譲渡についての説明はこちらの段落をご覧ください。
住民税
住民税は、所得税について大きな税金です。こちらは「譲渡所得税」のような言葉(譲渡住民税)はありません。単純に「住民税」と呼ばれます。
住民税の税率
農地も含め、不動産の譲渡所得にかかる住民税の税率は、下の通りです。
- 長期譲渡所得…5%
- 短期譲渡所得…9%
この住民税が所得税と合算されるため、長期譲渡・短期譲渡でそれぞれ下のような税率になります。
- 長期譲渡…20%
- 短期譲渡…39%
このように、農地の売却でかかる税金(他の土地でも同じ)は、本来シンプルに計算できるものです。しかし、平成49年(2037年)までは復興税がかかるため、税率がもう少し複雑になります。
もちろん、復興は大切なので、復興税があるのはいいことです。ここからは、復興税について説明していきます。
復興税(復興特別所得税)
復興税の税率は「2.1%」です。そして、何に掛けるかというと所得税です。住民税にはかかりません。
所得税に復興税の税率をかけるとどうなる?
まず、所得税(譲渡所得税)の税率をおさらいしましょう。
- 長期譲渡…15%
- 短期譲渡…30%
このような税率でした。ここに復興税として、それぞれ「2.1%」が掛けられるのです。
- 長期譲渡…15%×2.1%
- 短期譲渡…30%×2.1%
上記のような式です。そして、それぞれ計算すると、復興税の税率(計算用の税率でなく、実際に支払う段階の税率)は、下のようになります。
- 長期譲渡…0.315%
- 短期譲渡…0.63%
これで「所得税・住民税・復興税」の3つの税率が揃いました。これを一覧にしてみましょう。
長期譲渡の場合
長期譲渡で3つの税率を一覧にすると、下の通りです。
- 所得税…15%
- 住民税…5%
- 復興税…0.315%
合計すると「20.315%」になります。復興税がある2037年までは、長期譲渡のトータル税率は「20.315%」ということです。
短期譲渡の場合
短期譲渡の場合、下のようになります。
- 所得税…30%
- 住民税…9%
- 復興税…0.63%
合計で「39.63%」となり、短期譲渡のトータル税率は「39.63%」といえます。
これらの税率を、売却益にかける
こうして税率が決まったら、あとはそれを「農地を売却して得た利益にかけるだけ」です。たとえば100万円の利益が出たら、長期譲渡・短期譲渡のそれぞれで、下のような税額になります。
- 長期譲渡…20万3150円
- 短期譲渡…39万6300円
100万円という少額の利益の場合なので、上のように端数が小さくなっています。実際には50円のような「下2桁」は切り捨てです。つまり、長期譲渡の方は「20万3100円」になります(50円の違いなので、それほど真面目に考える必要はありませんが)。


短期譲渡・長期譲渡の違い
ここまでは「短期譲渡・長期譲渡」のいずれかで、税率が変わることを説明してきました。次に気になるのは「短期譲渡・長期譲渡とは何か」「どう違うのか」という点でしょう。
これについて、ポイントをまとめると下のようになります。
以下、それぞれのポイントについて説明します。
「土地を買ってからの期間」で変わる
短期譲渡・長期譲渡は「土地を買ってからの期間」で区別されます。
- 買ってから5年以内…短期
- 買ってから5年超…長期
上記のような区別です。スタートは「買った年」で、終わりは「売る年」です。
トータルの税率は「20.315%」と「39.63%」
短期譲渡所得・長期譲渡所得で、トータルの税率はそれぞれ下のようになります。トータルとは、所得税・住民税・復興税の3つをあわせた税率です(前の段落で説明した通りです)。
短期譲渡所得 | 39.63% |
---|---|
長期譲渡所得 | 20.315% |
このように、短期譲渡での税率は、長期譲渡のほぼ2倍となります。
短期譲渡の方が税率が高くなる理由
これは「転売防止」です。転売は不動産市場を活性化させるメリットもありますが、バブルを引き起こすデメリットもあります。
このため「転売がほどほどになるように」と、5年以内での売却については税率を高くするわけです。「売るたびに、税金で利益が目減りしていく」ようにすれば、連続での転売がしにくくなり、市場が過熱することもなくなります。
期間のカウント方法に注意
「5年が境目」というのはわかりやすいのですが、この「5年に達するのはいつか」という点は、意外とややこしいものです。たとえば、あなたが「2019年6月1日」に農地を買ったとします。
そうすると、普通は5年後なので「2024年6月1日」がボーダーライン(期限)だと思うでしょう。しかし、そうはならないのです。
「5年後の年の12月31日まで」が期限
5年となる期限ですが「きっちり5年後」ではないのです。「5年後の年」の「12月31日」が期限になります。
つまり、上の「2019年6月1日」に土地を買ったケースでは、下のように考えます。
- 2019年の5年後は、2024年である
- そして「2024年の12月31日」が期限になる
- つまり、長期譲渡になるのは「2025年1月1日」から


長期譲渡にする場合、必ず「5年より長く」なる
上の計算ルールのため、長期譲渡にしようと思うと「5年きっちり」で売れることはありません。たとえば上の「6月1日」に土地を買ったケースの場合「5年6カ月」で、ようやく長期譲渡になりました。
これがもし「1月に買った」のであれば5年と11カ月で、約6年になります。ほぼ1年長く待つ必要があるのです。
逆に12月に土地を買ったら「5年1カ月」で長期譲渡になります。31日などのギリギリの日に買ったら「5年と1日」のみです。
もちろん、早く長期譲渡にしてもらうために、このような日付でわざわざ買う人はいないでしょう。しかし、計算のルールをわかりやすく説明すると、このようになります。
農地売却での税金の計算方法
農地売却でかかる税金の計算方法は、ポイントをまとめると下のようになります。
以下、それぞれ解説していきます。
普通の土地と同じ(利益×税率)
農地の売却でも、税金の計算方法は普通の土地と変わりません。「利益×税率」というパターンです。


そして、税率についてはここまで書いてきた通り「20.315%」か「39.63%」のどちらかです。
利益(譲渡所得)の計算方法
「利益×税率」の公式のうち、税率についてはすでにわかっています。このため、あとは利益を出すだけです。農地も含めて不動産を売るときの利益は「譲渡所得」といいます。
この譲渡所得の計算式は、下記の通りです。
売却価格-(取得費+譲渡費用)
これは簡単に書くと「売上-コスト」です。譲渡所得は利益のことなので、「利益を出すには、売上からコストを引けばいい」のです。これもやはり「普通の会社の利益を計算するのと同じ」といえます。
売却価格・取得費・譲渡費用とは?
上の計算式に出てきた3つの単語の意味を説明すると、それぞれ下の通りです。
売却価格 | そのまま。農地がいくらで売れたか |
---|---|
取得費 | 農地を買うとき、いくらで買ったか |
譲渡費用 | 農地を売るのにかかった諸費用 |
売却価格については、特に説明しなくてもいいでしょう。取得費・譲渡費用について説明していきます。
取得費とは
取得費は「農地の購入代金」です。これ自体は簡単ですが、下のようなケースで難しくなります。
- 購入代金がわからない(契約書などをなくした)
- そもそも、買った土地ではない
農地は先祖代々で長期保有していることも多いので、こうしたケースがよくあります。
取得費がわからない場合
この場合のルールはシンプルで「売却価格の5%=取得費」となります。たとえば1000万円で売れたら「50万円が取得費」ということです。
計算は簡単でいいのですが、これはかなり不利です。というのは「95%が利益になる」=「税金が高くなる」ためです。
通常、95%も利益が出ることはない
当たり前ですが、普通「50万円で買った農地が、1000万円で売れる」ということはありません。「1000万円で買って1000万円で売る」など、大体同じ程度の値段になることがほとんどです。
多少値上がりすることもあれば、逆に値下がりすることもあります。近年は田舎からの人口流出がどんどん進んでいるため、農地はむしろ値下がりすることが多いでしょう。


売却にかかった諸経費は、すべて譲渡費用
続いてもう一つの「コスト」である譲渡費用ですが、これは「売却にかかったすべての経費」です。具体的には下のようなものがあります。
- 仲介手数料(不動産業者に払う)
- 登記費用(国に払う登録免許税)
- 司法書士報酬(登記を依頼する場合)
- 土地改良費(工事をする場合)
- 建物の解体費用(ビニールハウスなどがあった場合)
- 印紙代(契約書に貼る収入印紙の代金
このように多数ありますが、どんなものでも「売却に本当に必要だった費用」ならば、譲渡費用になります。これは個人事業の経費と同じで「多いほど利益が小さくなって節税になる」ものです。
ただ、言うまでもなく「コストを大きくして損するのは自分」なので、税金のことより譲渡費用を小さくするのが基本だと考えてください。

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農地売却の税金での特別控除とは?
ここまで書いてきた税金の計算方法は「農地以外の不動産の売却でも共通するもの」でした。しかし、農地ならではのルールとして「800万円の特別控除」があります。
これについてポイントをまとめると下記の通りです。
以下、それぞれ解説していきます。
条件に該当する売却のみが対象
この特別控除は、正式には「農地を譲渡した場合の特別控除」といいます。農地の売却だったらすべてが対象になる、というわけではありません。
対象になる売却は?
これは、農業委員会のあっせんなどによって、農地を地域の担い手に売った場合です。要は「半分公的な売却」といえます。
具体的な条件を書くと下記の通りです。
- 「農業委員会のあっせん」により「認定農業者など」に農地を売る
- 「農業経営基盤強化促進法」の「利用権等促進事業」で農地を売る
- 「農地保有合理化法人」に売る
1と2については、控除金額は800万円で固定されています。3のみ「通常は800万円、買い入れ協議によって売った場合は1500万円」という条件になっています(より大きな節税効果があるということです)。
利益から800万円が差し引かれ、節税になる
上に書いた通り基本は800万円、一部のケースのみ1500万円が差し引かれます。「譲渡所得=利益」から差し引くので「利益が小さく」なります。
税金は利益に対してかかるので、利益を縮小することで節税になるわけです。
相続した農地の売却で、税金の計算はどうなる?
両親や祖父母から農地を相続して売却することもあるでしょう。この場合の税金についてまとめると、下のようになります。
普通の土地と同じく「相続税」がかかる
農地の場合も、普通の土地の相続と同じように「相続税」がかかります。この相続税は「農地だけ」で計算されるわけではありません。
- 建物や普通の土地など、すべての不動産と合わせて計算
- 不動産だけでなく、現金や株式などの財産とも、合わせて計算
要は「農地も含めたすべての遺産をトータルで計算」して、相続税を出すということです。
すべての遺産の総額で、相続税率が決まる
上記のように「すべての遺産のトータルの金額」を出したら、その金額によって税率が決まります。金額ごとの税率を一覧にすると、下記の通りです。
1000万円以下 | 10% |
---|---|
3000万円以下 | 15% |
5000万円以下 | 20% |
1億円以下 | 30% |
相続する遺産が1億円を超えることはめったにないので、ここまで見れば十分でしょう。なお、一番高いのは「6億円超」で「55%」となります。
農地の相続税評価額には、独自の計算方法がある
不動産の相続税は「相続税評価額」をもとに計算します。この評価額に税率をかけたのが、相続税額です。
そして、この評価額の出し方ですが、農地の場合は独自の計算方法があります。具体的には下の2つの計算方式です。
- 宅地比準方式
- 「市街地農地での計算の80%」方式
後者については特に名前が付いていないのですが、いずれも「農地ならでは」の計算方法です(この他に「倍率方式」というものもありますが、これは宅地などでも使われるものです)。
次の段落では、この「農地独自の相続税評価額の計算方法」を解説していきます。

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相続税評価額の計算方法は、農地の種類で変わる
農地の相続税を計算するには「相続税評価額」を出す必要があります。その計算方法は、農地の種類別に4つです。
(正確には計算方法は3つですが、農地の種類が4つあります)
ここでは、4つの農地の種類について説明します(3つの計算方法はこちらの段落で解説します)。
市街地農地…宅地比準方式か、倍率方式
市街地農地とは、文字通り「市街地の中にある農地」です。市街地農地の条件は下の3つです。
3つとも満たす必要はなく、どれか一つを満たしていれば市街地農地となります。
市街化区域とは?
これは「積極的に開発を進める地域」です。もちろん、民間で決めることではなく役所が決めています。
市街化区域と違い「開発を調整・抑制している地域」が、市街化調整区域です。この市街化調整区域については、下の記事で詳しく解説しています。
「転用許可不要の農地」として、知事の指定を受けている
農地を宅地や事業用地にするには、本来「転用許可」が必要です。むやみに開発されてしまうと、日本の農業の自給率が「回復不可能な状態」になってしまう、自然が破壊されてしまうなどのリスクがあるためです。
しかし、農地の中でもその転用許可が「不要」と認定されている土地があります。都道府県知事によって正式に認定されるものですが、そうした土地も「市街地農地」となります(いつでも宅地にできるためです)。
(なお、こうした農地転用のルールについての詳細は、下の記事をご覧ください)
農地法4条・5条の「許可」に該当する
農地は農地法という法律で管理されています。この法律の4条・5条の内容はそれぞれ下の通りです。
- 4条…農地の転用の制限
- 5条…農地又は採草放牧地の転用のための権利移動の制限
どちらも「転用を制限する」という内容ですが、「こういう条件なら許可する」ということも書かれています。その「許可する」に該当する農地は、市街地農地となるわけです。
計算方法について
以上が市街地農地の条件ですが、この農地では下の2通りの計算方法のいずれかが使われます。
それぞれの詳細はクリックでご覧ください。
市街地周辺農地…市街地農地での計算の80%
市街地周辺農地は、簡単にいうと「準市街地農地」です。具体的な条件は下の通りです。
- 第3種農地
- 「第3種農地に準ずる」と認められる農地
カンタンに書くと「第3種農地か、それに近いもの」となります。
「それに近い」の認定方法
これは、下のような情報から判断します。
- 近傍農地の売買実例価額
- 精通者意見価格


- 近くの農地の売買事例(の値段)
- 専門家の意見
こうした認定は「定期的」に行われているので、あなたの農地が「第3種農地に準じるかどうか」は、現時点ですでに決まっています(ただし、明らかに認定がおかしい場合は、意義を唱えて鑑定などを依頼することもできます)。
第3種農地のうち「市街地農地」は除外する
実は、上の条件「第3種農地かそれに近いもの」には、市街地農地も該当します。しかし、重複することは当然よくありません(どちらの土地として計算するのか、混乱するためです)。
このため、第3種農地(とそれに近いもの)の中でも「市街地農地にならないもの」が、市街地周辺農地になります。
市街地周辺農地の価格の出し方
市街地周辺農地の価額は「市街地農地だった場合の価格の80%とする方式」で出せます(特に名前はなく、計算方法でそのまま呼ばれています)。
この計算方法については、こちらの段落で解説しています。→(「市街地農地評価額の80%」とする方式)
中間農地…倍率方式
中間農地とは、「第2種農地か、それに近いもの」です。正確に書くと、下のようになります。
- 第二種農地
- 第二種農地と認められる農地
「認められる」の条件は、先ほどと同じです。「近隣の事例・専門家の意見」などを参考にして決めます。


純農地…倍率方式
純農地は「一定の条件に該当し、宅地価額の影響を受けない農地」です。一定の条件とは、下のようなものです。
- 第1種農地
- 甲種農地(ただし「市街化調整区域内にある」ことが条件)
- 農用地区域内にある
1つ目はわかりやすいでしょう。「第1種農地は全部、純農地」ということです。
2つ目の「甲種農地」ですが、これも第一種農地にレベルが近いものです。しかし、農地度がやや劣るため、条件が付いています。
その条件が「市街化調整区域内にあること」ですが、この区域は「開発が抑制される区域」です。つまり、上に書いた「宅地価額の影響雨を受けない」に該当します。
3つ目は「農用地区なら、農業にしか使えない」→「だから、そのまま純農地」ということです。
というのが純農地の条件ですが、純農地では「倍率方式」が用いられます。純農地だけでなく、先に説明した「中間農地」も、同じく倍率方式を使います。
以下、この倍率方式を含めて3つの計算方式を説明していきます。
(ちなみに、純農地では田んぼが多くなりますが、田んぼの売却については下の記事で詳しく解説しています)
相続税評価額の3つの計算方式
相続税評価額の計算方式は3つあります。一覧にすると下記の通りです。
以下、それぞれの方式の説明です。
倍率方式
倍率方式は「固定資産税評価額を1.1倍して、相続税評価額を出す」ものです。計算式で書くと下のようになります。
固定資産税評価額×1.1=相続税評価額
こうして相続税の評価額を出したら、あとはそこに「相続税率」をかけて、相続税を出します。
なぜ1.1倍なのか
これは「固定資産税の評価額の方が、相続税の評価額より安いため」です。
- 固定資産税は毎年かかるので、税金が安くなるようにしている
- 相続税は一生で数回しかかからないので、税金が少し高めになっている
上記のような違いです。


この件に限らず、税金のルールは「なぜそうなるのか」が曖昧な部分も随所にあるものです。国によってはそもそも相続税がないので、このあたりは「国の決定次第」と言っていいでしょう。
固定資産税・相続税の評価額を比較
固定資産税・相続税の評価額は、それぞれ時価(後ほど説明)に対して、下のような割合になっています。
固定資産税評価額 | 時価の7割(70%) |
---|---|
相続税評価額 | 時価の8割(80%) |
上のように固定資産税評価額の方が「10%安い」ので、「110%=1.1倍」にすることで、相続税評価額が出るということです。


農地の時価とは
農地の時価も、普通の土地の時価と同じです。そして、普通の土地の時価とは、「公示価格×面積」です。
公示価格とは
公示価格とは「国が毎年1月1日に決める、土地ごとの1㎡あたりの値段」です。これを元に税金の計算をします。税金の計算だけでなく、公共事業で土地を個人から買収するときにも、この値段を使います。
公示価格は「1㎡あたり」の値段なので、それに面積を掛けるわけです。これで「時価=公示価格×面積」という計算式になります。
本来の時価(実勢価格とは違う)
時価とは本来「そのときどきの市場での値段」を指すものです。しかし、相続税や固定資産税の評価額を出すときの時価は違い、上のように「毎年固定されて」います。
理由は「そうしないと税金の計算ができない」ためです。土地の値段は毎日少しずつ変動するものです。このため、本来の実勢価格に合わせて計算していたら、税金の計算が複雑になりすぎるわけです。
バブル期などは計算自体が不可能になる
複雑になるだけならまだしも、かつてのバブル期のようになると、計算自体ができなくなります。たとえば土地の価値が1年で2倍になってしまったら、税金が高くなりすぎるわけです。
上がっているうちはいいのですが、バブルが崩壊した翌年の納税などは「悲惨なことになる」わけですね。このため「税金の計算をするときは、市場の価格に合わせてはいけない」のです。その方が国民にとってもいいわけですね。
結論…倍率方式とは
以上、農地の相続税を計算する方式の一つ「倍率方式」について説明してきました。要点をまとめると、倍率方式では、下の方法で農地の相続税を出せます。
- 固定資産税評価額×1.1倍
- 時価×0.8倍
そして、時価は「公示価格×面積」です。2つの計算式のどちらを使ってもいいのですが、1つ目の方が簡単です。
1つ目(固定資産税評価額×1.1倍)が簡単な理由
これは「固定資産税評価額はすぐわかる」ためです。毎年4月に通知書が届くので、それを保管していればわかります。
また、保管していなくても役所に行けば数百円で再発行してもらえます(何度でも)。このように、同じ倍率方式の計算方法でも、1つ目の方が簡単なため、採用されているのです。
(逆に2つ目の方法で「公示価格・面積」を調べようとすると、固定資産税評価額よりは手間がかかります)
宅地比準方式
宅地比準方式とは、文字通り「宅地としての価格を基準にして、農地の価格を出す」方式です。より詳しく書くと、「宅地としての価格から、宅地への転用に必要な造成費を差し引く」ものです。
計算の流れ
計算を流れで書くと、下のようになります。まず「宅地としての価格」下のように出します。
- その農地が「宅地である」とする
- その場合の「1㎡当たりの価格」を出す
- この価格に面積をかける
- これで「宅地としての価格」が出る
次にここから「農地としての価格」を出します。↓
- その農地を「宅地に転用する」とする
- そのとき、一般的に必要な費用を計算する
- この費用を、先に出した「宅地としての価格」からマイナスする
- これで「農地としての価格」が出る
なぜ「宅地から出す」のか
これは「その方がわかりやすい農地の場合は、そうする」ということです。すべての農地でそうするわけではないので注意してください。
宅地比準方式を使うのは「市街地農地」のみである
宅地比準方式は、普通の農地には使われません。使うのは「市街地農地」のみです。
市街地農地は「町の中にある」ので、宅地としての価値が簡単に出せます。近隣での売買事例や、賃貸の価格などの情報が多くあるためです。


そのように「頼りになる」データがあるなら、それを使う方がいい―。という感覚で「市街地農地では、宅地価格を参考にして農地価格を出す」ということです。
なぜ造成費を引くのか
まず、あなたが農地を持っていたとしましょう。そして、それを誰かに売ります。
このとき、あなたが「宅地にしたら1000万円の価値があるよ」とアピールしたとしましょう。それを聞いた相手は「でも、宅地にするのにいくらかかるわけ?」と聞くでしょう。
ここで、あなたが「100万円かかる」と言ったとします。すると相手は「じゃあ、100万円マイナスになるから、その農地の価値は900万円だね」というでしょう。
(もちろん、これらの金額はすべて正しいという前提です。正しいことを証明するには不動産鑑定・測量などが必要です)
国税庁の説明
宅地比準方式について、ここまでは簡略化して説明してきました。国税庁の正確な説明を引用すると、下の通りです。
その農地が宅地であるとした場合の1平方メートル当たりの価額からその農地を宅地に転用する場合にかかる通常必要と認められる1平方メートル当たりの造成費に相当する金額を控除した金額に、その農地の地積を乗じて計算した金額により評価する方法をいいます。
農地の評価(国税庁)
一読しただけではわかりにくく、難しい表現になっていますが、書かれている内容はここまで説明した通りです。
「市街地農地評価額の80%」とする方式
この方式は、倍率方式・宅地比準方式のような名前がありません。「市街地周辺農地」で使われる方式です。
計算の手順
手順を箇条書きにすると、下のようになります。
- まず、その土地が「市街地農地」だったとする(周辺農地ではなく)
- そして「市街地農地ならいくらになるか」を出す
- このときの出し方は、倍率方式・宅地比準方式のどちらか
- 出したあと、その80%の金額に決める
気づく方もいるかもしれませんが、この原理は「宅地比準方式」とよく似ています。
宅地比準方式と似ている部分
宅地比準方式は、下のような順番で農地の価格を出します。
- まず、その農地を「宅地である」と考える
- そして、「その宅地価格」を出す
- その宅地価格から「造成費」を引く
- これで「農地価格」が出る
これに対して「80%とする方式」は、下のような手順で農地価格を出します。
- まず、その市街地周辺農地を「市街地農地である」と考える
- そして、「その農地価格」を出す
- その農地価格から「20%」を引く
- これで、その「農地価格」がでる
つまり、宅地比準方式・80%方式の2つで、下のように項目が置き換わるのです。
宅地比準方式 | 80%方式 |
---|---|
最初に「宅地である」と考える | 最初に「市街地農地である」と考える |
計算後「造成費」を引く | 計算後「20%」を引く |
このように、基本的な仕組みは「宅地比準方式とほぼ同じ」となっっています。
まとめ
以上、農地の売却でかかる税金について解説してきました。最後にポイントをまとめると、下のようになります。
- 農地の売却でかかる税金は3種類
- 所得税・住民税・復興税
- 合計の税率は「39.63%」か「20.315%」
- 短期譲渡・長期譲渡によって変わる
- 農地ならではの特徴は「800万円の特別控除」
- ↑農地委員会のあっせんなど、一定の条件に該当する場合のみ
- 相続税評価額の計算には農地独自のルールがある
農地委員会のあっせんがあるなど特別なケースでなければ、農地の売却でも普通の土地と大きく変わることはありません。それだけ情報も多く、計算もしやすいということです。
農地に限らず、不動産を売却するときの節税は、事前に勉強してから売ることで大きく有利になります(勉強しないまま売ると、非常に不利な売り方を知らないうちにしてしまいます)。
このため、農地の売却を検討している場合は、まず税金についてよく勉強してから売るようにして下さい。