親名義の不動産売却について、下のような点が気になる人は多いでしょう。
- 親名義のままでも自分が売ることはできるのか
- 親が認知症の場合はどうすればいいのか
- 親が亡くなった後、相続から売却までの流れはどうなっているのか
- 不動産の売却益を親からもらう許可を得ている場合、どう売るべきか
これについて結論をまとめると、それぞれ以下のようになります。
以下、これら4つの売り方や、必要書類・かかる税金・費用の目安などを解説していきます。親名義の不動産を売ることについて悩んでいる方には、きっと役立つでしょう。
Contents
親名義の不動産売却・4つの方法



以下、それぞれの方法について説明していきます。
「相続」して売る
親が不動産を持ったまま亡くなったときは、それを相続してから売ることになります。このときの流れは下記の通りです。
以下、それぞれの手順について詳しく解説していきます。
家族で話し合い「遺産分割協議書」をまとめる
親が遺言状などを残さずに亡くなった場合、残された家族や親戚などで話し合って、遺産分割を行います。そして、そのときに決まった内容を遺産分割協議書として書類にまとめることが必要です。
遺産分割協議書の形式は特に決まっていませんが、司法書士事務所のホームページなどで提供されているテンプレートを使うといいでしょう。遺言がある場合はその内容に従い、やはり遺産分割協議書を作成します。
遺言に不満のある家族・親戚がいる場合には、少々話し合いが難航するかもしれません。どのようなケースにしても、まずはこの「遺産分割」の内容を確定させることが必要です。
なお、遺産を分割する際「不動産を共有名義にする」のは避けましょう。この点については、下の記事で詳しく解説しています。
「相続登記」をする
遺産分割の内容が確定したら、次は相続登記をします。親が亡くなっても、親名義の不動産は親名義のままです。自動的に相続人の名義になるわけではありません。
不動産の相続登記の必要書類
不動産の相続登記の必要書類は「亡くなった親」「相続する子供」のそれぞれに存在します。まず親の方の書類は下の通りです(親は亡くなっているので子どもが用意します)。
- 戸籍謄本
- 住民税の除票(または、戸籍の附票の除票)
続いて、子供の方の書類は下記の通りです。
- 遺産分割協議書
- 戸籍謄本(法定相続人全員のもの)
- 住民税(自分の)
そして、相続する不動産についての書類は以下のものです。
- 固定資産評価証明書
- 登記簿謄本(全部事項証明書)
特に不動産の相続手続きは難しいので、司法書士に依頼することが多くなります。司法書士に依頼する場合は、上記に加えて「委任状」も必要です。
自分が相続した分を売却する
相続登記が完了したら、親名義の不動産が晴れて自分のものになります。ここからは自由に売却可能です。
自分名義になったあとの売却については、もう普通の売却のやり方と同じになります。まずは一括査定サイトなどで大体の相場を把握し、高く買い取ってくれそう(売ってくれそう)な不動産会社の数社と交渉するのがいいでしょう。
(不動産一括査定サイトについては下の記事で詳しく紹介しています)
「親の代理」で売る
親がまだ元気で判断能力もしっかりあるものの「不動産の手続きはよくわからないから、子どもに任せる」ということもあるでしょう。この場合は、あなたが親の「代理人」となります。
しかし「私も不動産のことはわからないから、司法書士に任せたい」ということもあるでしょう。その場合の選択肢は下の2通りです。
- 親に直接司法書士に依頼してもらう
- 親の代理であるあなたが、司法書士に依頼する
前者が一番スマートですが、これは「親名義の不動産売却」とは関係ないため、後者について説明します。
代理人の代理人である「復代理人」を立てることは可能
法律手続きでは「復代理人」という制度があります。「代理人の代理人」のことです。親の代理人であるあなたが司法書士や弁護士などに手続きをまかせるとき、彼ら・彼女らが復代理人となります。
この場合、最初の委任状に「復代理人選任の権限」についても明記しておくことが必要です。文面は自由ですが、「このような手続きの権限を与える」というものの中に、復代理人の選任を入れておきましょう。
復代理人のルールについて
復代理人を立てるのは「法定代理人」であれば自由にできます。法定代理人は、親が認知症などで判断能力がないときに、家庭裁判所などが認定して立てる代理人です。成年後見人などは法定代理人に当たります。
そして、親の判断能力がしっかりしている状態で子どもが代理人になるときは「任意代理人」となります。任意代理人では復代理人を自由に立てる権限はないため、先に書いたような委任状への記載が必要になります。
※参考…復代理人とは(アットホーム)
「親の後見人」として売る
親が認知症などにかかっており「子どもを代理人にする意思すら示すことができない」という場合もあるでしょう。この場合は、あなたが「親の成年後見人」になる必要があります。
成年後見人になるには家庭裁判所の認定が必要です。この認定を受けるには、家庭裁判所に対して「成年後見申立」を行います。
裁判所によってはこの手続きの必要書類を「成年後見等申立セット」として、非常にわかりやすい形でまとめています。
これらの書類に記入をして家庭裁判所に提出し、認定されれば成年後見人として自由に親名義の不動産を売却できます。
(ただし、その利益は親のものとなります)
「贈与」を目的に売る
これは、ここまでに書いた「親の代理で売る」「親の後見人として売る」という方法と、形式は同じです。あなたが代理人か後見人となり、親名義の不動産を売ります。
違いは、その利益が「あなたのものになる」ということです。前の2つの方法は「手続きをするのはあなた、利益は親のもの」という形でした。しかし、贈与を目的に売る場合は「利益は最終的にあなたのもの」になります。
「最終的に」というのは、最初はやはり「親の利益」になるからです。
- 不動産を売る
- 親の利益になる
- それを子ども(あなた)に贈与する
このような段階を踏みます。つまり、最後の「贈与」がある以外は、「親の代理・後見人」のパターンと同じなのです。
なぜこの順番で贈与するのか?
実は、この順番でなくてもかまいません。下のような贈与のやり方もあります。
- 現金でなく不動産で、親からあなたに譲渡する
- あなたがその不動産を売る
最終的に得る金額については、どちらが高くなるかは決まっていません。ほぼ同じになることもあれば、状況によってどちらかがかなり高くなることもあります。
ただ「先に自分名義にしてから売る」というのは、「親名義の不動産売却」にはならないため、ここでは除外したということです。
親名義の不動産売却での必要書類
親名義の不動産売却に必要な書類・ものは以下の5つです。
- 印鑑証明書(親の)
- 身分証明書(親の)
- 住民票(親の)
- 実印(親の)
- 委任状(親からあなたに対する)
ほとんどが「親の」書類ですが、親が不動産の名義人である以上、これは当然といえます。また、あなたが委任された代理人であることを証明するため、あなたの身分証明書や実印も必要です。
(場合によっては印鑑証明書も必要になります)
親名義の不動産売却で必要な費用の種類と相場
親名義の不動産売却でかかる費用の種類は、大別して3通りです。
以下、それぞれ詳しく説明していきます。
税金
税金は4つの売却方法別に下のものがかかります。カッコ内は「誰がその税金を払うか」です。
相続してから売る | 相続税(あなた)・譲渡所得税(あなた) |
---|---|
親の代理人として売る | 譲渡所得税(親) |
親の後見人として売る | 譲渡所得税(親) |
贈与を目的として売る | 譲渡所得税(親)・贈与税(あなた) |






「暦年贈与」で贈与税を非課税にする方法(当記事の別段落にジャンプ)
諸費用
親名義の不動産売却でかかる諸費用を一覧にすると、主に下のようになります。
不動産登記簿の取得費用 | 1通600円 |
---|---|
郵送代 | あらゆる書類の送料(ケースによる) |
交通費 | 法務局や税務署などに足を運ぶ費用 |
リフォーム代 | 建物をリフォームしてから売却する場合 |
諸費用の中で圧倒的に大きいのはリフォーム代です。それ以外はほとんど「ないも同然」と考えていいでしょう。
リフォーム代についてはどれだけかかるかケースバイケースですが、フルリフォームの場合は500万円程度かかると思って下さい。
(部分的なリフォームであれば10万円程度でできることも多くあります)
司法書士などへの依頼報酬
司法書士などへの依頼報酬は、手続きの内容や事務所によって金額が千差万別です。例として司法書士に登記を依頼するときの相場を一覧にすると、以下のようになります。
相続(戸籍収集などすべての手続きを代行) | 9万円 |
---|---|
相続(登記のみ。戸籍収集や遺産分割協議書の作成は自分で) | 6万円 |
売買による名義変更(所有権移転登記) | 6万円 |
贈与による名義変更 | 5万円 |
※参考…不動産登記の料金表(福岡県久留米市のおちいし司法書士事務所)
あくまで一つの司法書士事務所さんの例ですが、大体「5万円~10万円程度かかる」と考えていいでしょう。
親名義の不動産売却にかかる期間・日数の目安
親名義の不動産売却でかかる日数や期間は、手続きの内容ごとにまとめると下記のようになります。
法務局での各種登記の日数 | 届出後、1週間~10日(訂正がなければ) |
---|---|
親から委任状をもらう | 最短即日 |
親の住民票・印鑑証明書などを収集する | 最短即日 |
不動産の登記簿謄本を取得する | 法務局に行けば即日。郵送なら数日 |
地積測量図を作成する(必要な場合) | ケースバイケース。測量事務所のスケジュールにもよる |
境界確認書を作成する(必要な場合) | ケースバイケース。測量事務所・隣家・役所の担当者などのスケジュールによる |
売り出してから買い手が見つかるまで | 早く売れても3カ月はかかると覚悟する。長ければ数年かかることも。1年以内には大体売れる |
基本的に「その人の手続き能力次第」という部分が多くあります。こうした手続きの類に慣れていない場合は、司法書士に任せる方がいいでしょう。司法書士に任せるのがもっとも早い方法です。

親名義の不動産売却ではどんな税金がかかる?
親名義の不動産売却でかかる税金を一覧にすると、以下の通りです。ただし、これらはかかるケースとかからないケースがあります。

以下、それぞれの税金について解説していきます。
相続税
親が亡くなって実家などの不動産を相続した場合は、相続税がかかることがあります。しかし、一般的な家庭では相続税がかかることは少なく、かかっても少額となります。理由は、相続税は「基礎控除額が大きい」からです。
相続税の基礎控除とは?
まず基礎控除とは「この金額までは必ず非課税になる」というものです。その金額ですが、相続税では「最低でも3600万円」となっています。
「最低でも」というのは、「相続人の人数がたった1人」というケースです。相続人が1人増えるごとに600万円ずつ増えていくので、4200万円・4800万円…と、基礎控除の金額は大きくなっていきます。
相続税の基礎控除額の計算式
計算式は下の通りです。
基礎控除額(3000万円 + 600万円 × 法定相続人の数)
相続税の計算(国税庁)
たとえば両親が亡くなり、兄弟姉妹3人が残ったとしましょう。この場合、法定相続人の数は3人です。そのため、「3000万円+1800万円」で4800万円が基礎控除額となります。
すると、相続する実家の価値が4800万円を超えない限り、相続税は一切かからないのです。そして、仮に超えたとしても「超えた分にかかるだけ」なので、その金額は微々たるものになります。
5000万円の不動産を相続した場合
上のケースで「5000万円」の不動産を相続したとしましょう。この時、基礎控除が適用されないのは200万円です。この200万円が「課税所得」となります。
そして、200万円に対してかかる税金は「20万円」です。1000万円以下の課税所得の場合、相続税の税率は「10%」だからです。
3人で相続して20万円ということは、1人当たりで計算すると7万円ということです。「ほとんど大した金額ではない」というのは実感できるでしょう。
そもそも、実家というのは築年数がかなり経っていることが多く、時価も低くなっているのが普通です。その状態で5000万円を超えるのは相当な「豪邸」といえます。
そのような豪邸を相続するケースでようやく20万円の税金がかかるだけということです。そう考えると「相続税は基本的にかからない」と考えていいでしょう。
(もちろん富裕層の家庭などはかかるので、その場合は税理士などによく相談する必要があります)
※参考…相続税の税率(国税庁)
譲渡所得税
譲渡所得税とは「売却益にかかる税金」です。要は普通の所得税と同じといえます。「儲かった分にかかる税金」です。
「譲渡」という文字があるので「親から子どもへの贈与」にかかる税金を連想する人もいるでしょう。しかし、この譲渡とは「売却」のことです。つまり、赤の他人に売ることを指しています。
もちろん、親や子どもに対して売却することも可能です。この場合はかかる税金は贈与税ではなく、譲渡所得税になります(贈与税については後ほど説明します)。
譲渡所得税が発生するタイミング
これは「不動産を誰かに売ったとき」です。
上記のいずれの方法であっても、不動産会社など「誰かに売る」わけですが、そのタイミングで譲渡所得税が発生します。
譲渡所得税は誰にかかるのか
上の4つのケース別に書くと、以下の通りです。
相続してから売る | あなた |
---|---|
親の代理人として売る | 親 |
親の後見人として売る | 親 |
親名義で売ってから、利益をあなたに贈与 | 親 |
このように、譲渡所得税はほとんど親にかかります。要は「売却時点で不動産の名義を持っていた人」に税金がかかるということです。






贈与税
贈与税は「財産を無償で譲ったとき」にかかる税金です。相手は親子などの家族に限りません。赤の他人に無償で財産を渡した場合でも、やはり贈与税が発生します。
贈与税と譲渡所得税の違いの1つは「誰が税金を払うか」です。
贈与税 | もらう人が払う |
---|---|
譲渡所得税 | 渡した人(正確には売却して利益を得た人)が払う |

親名義の不動産売却で贈与税がかかるのは、売却による利益をあなたに移したときのみです。先に書いた「4つ目の方法」です。
不動産取得税
不動産取得税は文字通り「不動産を手に入れたとき」にかかります。
- 購入したとき
- 贈与でもらったとき
この2つのどちらでも発生します。相続については発生しません。
相続とは「親が死んだ」ということであり、これは狙ってできることではないためです。ただ、その不動産の価値が大きい場合は、課税しなければ日本の経済格差がいつまでも続いてしまうため、相続税はかかります。
※参考…相続した不動産に不動産取得税はかかる?(税理士法人チェスター)
固定資産税
固定資産税は、不動産の所有者に対してかかる税金です。この「所有者」と認定されるタイミングですが、毎年1月1日となっています。
つまり、親から相続した不動産をすぐに売るにしても、1月1日の時点であなたに所有権があったら、あなたには固定資産税の支払い義務があるのです。
年度の途中で売却したら、買主との間で精算できる
たとえば1月時点ではあなたに所有権があっても、2月に物件が売れて、買主に所有権が移ったとしましょう。この場合、その1年のほとんどはその買主が、その不動産を所有しているわけです。
それにもかかわらず、1月の時点であなたが所有権を持っていたからといって、あなたが1年分の固定資産税を払うのはおかしいでしょう。そのため、このようなケースでは売買契約を交わすときに精算することになります。
- 「今年、私は○○万円の固定資産税を払いました」
- 「2月以降の固定資産税については、あなたが負担してください」
上記のように買主に対して伝えるわけです。これは不動産の売買では当たり前に見られる光景なので、拒否する買主は基本的にいません。
最初は難色を示しても、不動産会社に相談すればほぼ100%「それが普通です」というので、納得してくれるでしょう。たまにこのような知識がなく、自分で固定資産税をすべて払ってしまう売主もいます。これは損なので、固定資産税についての取り決めも、売買契約のときにしっかりするようにしましょう。


親名義の不動産売却に関する用語解説
ここでは、親名義の不動産を売却する際に知っておくと役立つ用語について解説します。解説する用語は以下の通りです。
- 家族信託
- 暦年贈与
- 法定後見制度・任意後見制度
以下、それぞれ解説していきます。
家族信託
家族信託は「信頼できる家族に財産を管理してもらうもの」です。財産管理の一手法として、近年普及し始めています。
信託銀行という言葉は聞いたことがあるでしょうが、これは「銀行にまかせる信託」です。信託という言葉は「信じて託す」という文字通り、財産管理や投資運用などを任せることを指します。
その任せる相手を家族にするのが家族信託です。
暦年贈与
暦年贈与は、贈与したい財産を何年かにわけて贈与するものです。贈与は「年間110万円以上」の金額が課税対象となります。
これは逆に言えば「毎年110万円までに抑えれば課税されない」ということです。たとえば1100万円の財産を贈与したい場合「110万円×10年」と分けて贈与すれば、一切税金を払わないで済みます。
不動産を分けて贈与する場合は、毎年登記をする必要があるので、その登録免許税だけはかかります。しかし、通常なら「贈与税+登録免許税」となるので、その贈与税の分がなくなるだけでも十分にメリットがあるのです。
贈与税が年間110万円まで非課税というのは、誰から誰に送る場合でも同じです。父母から子、夫から妻などの家族はもちろん、第三者からの贈与でもこのルールが適用されます。
注意点は「送った元の人物は別でも、自分自身がもらった金額が年間110万円を超えたら課税される」ということです。たとえば親から60万円、友達から60万円もらったら、合計120万円となり10万円分に課税されます。
暦年贈与は時間がかかる方法なので、できるだけ早めにスタートさせるのがおすすめです。
法定後見制度・任意後見制度
後見制度は、認知症などで判断能力をなくした人に変わって、保佐人(補助人)が代わりに法律行為を行うものです。法定・任意の違いは下記の通りです。
- 法定後見制度…本人が判断能力をなくしてから設定
- 任意後見制度…本人の判断能力があるうちに、本人が設定
任意の「本人が設定」というのは「私がいつかボケる前に」と、自分で後見人を指名しておくものです。高齢の親がこの指名をしないうちに判断能力をなくしてしまった場合は、家庭裁判所に審判の申し立てをして法定後見制度を適用することになります。
そうして、親の法律行為の代理権を正式に得れば、親の委任状なしで土地・住宅の売却もできます。
まとめ
以上、親名義の不動産を売却する4つの方法と、必要な書類や費用、かかる期間などをまとめてきました。最後にポイントを再度まとめると、以下のようになります。
- 親名義の不動産は、相続・代理・後見などの方法で売ることができる
- 代理・後見で利益を自分のものにしたい場合は、売却した後でその金銭を自分に贈与する
- 親が判断能力をなくしている場合は、家庭裁判所に申立をし、自分が成年後見人になる
上記が主なポイントとなります。個別の複雑なケースについては、無料で弁護士への相談を書き込むことで、複数の弁護士回答を得られるサイトなどがあるので、そうしたサービスを使うといいでしょう。
親名義の不動産を売却するときは、くれぐれも親や兄弟などの他の関係者に無断で行わないようにしてください。家族内のトラブルは特に感情が絡んで尾を引くことが多いため、正しい手順にのっとって、適正に進めていきましょう。