古い建物のついた土地を持っている場合、下のような点で悩むことが多いでしょう。
それぞれの結論をまとめると以下の通りです。
更地にすべき物件の条件 | 古い・土地の価値がきわめて高い・旧耐震基準・特定のビジネスへの転用で利益が見込める |
---|---|
メリット・デメリット | メリット…売れやすい、デメリット…解体費用がかかる |
解体費用の相場 | 90万円~250万円程度(あくまで目安) |
以下、これらのポイントについてさらに詳しくまとめていきます。この記事を読んでいただくことで、ご自身のケースで物件を更地にすべきかどうか、その時どのくらいの費用がかかるかなどの検証をしやすくなるでしょう。
Contents
更地にして売却すべき物件
更地にして売るべき物件の条件は、下の4通りです。
以下、それぞれの条件について詳しく解説していきます。
ボロボロの物件
当然ながらボロボロの物件は更地にして売却すべきです。特に長らく空き家になっているような建物は、下のような理由で周辺の居住者に迷惑がかかる可能性が高くなります。
- 地震・台風などの災害で崩壊する
- 犯罪者・浮浪者などの拠点になる
- 蜂やシロアリが巣を作るなど、害虫の発生源になる
特に台風は日本の各地で毎年ほぼ確実に起こる災害ですが、ボロボロの古家からトタン板などが飛来し、周りの住民に迷惑がかかるケースは多くあります。そのような事態を避けるためにも、ボロボロの建物は確実に更地にして売却すべきです。
ボロボロでなくとも、土地の価値がきわめて高い物件
ボロボロとまでは言わなくても、土地の価値が非常に高い物件の場合、更地にして売却すべきです。「解体工事の費用を出しても、それを上回る売却益が期待できる」「リフォームして売るより更地にする方が高く売れる可能性が高い」からです。
この見極めは素人では難しいため、不動産会社などプロのアドバイスを受けるといいでしょう。もちろん、1社だけではその業者の都合がいいようなアドバイスをされる可能性があります。
そのため、まずは一括査定サイトなどを利用して多数の会社にアプローチし、そこから信頼できる数社に絞り込んで見積もりを取り、アドバイスを受けるようにしましょう。
(不動産一括査定サイトについては、下の記事を参考にしていただけたらと思います)
新耐震基準を満たしていない物件
新耐震基準とは1981年6月1日以降に適用された耐震基準です。これ以前の基準は旧耐震基準といいます。
2018年9月現在、築年数が37年以上の物件は、旧耐震基準で建築されている可能性が高いものです。旧耐震基準の物件はそのままでは人が住めないため、リノベーションが必須となります。
- 自分でリノベーションしてから売る
- 業者にそのまま買い取ってもらう(リノベーションは業者がする)
上記のいずれかの選択肢になりますが、ほとんどは後者になります。そもそも「リノベーションするより取り壊した方が早い」という物件が多いためです。つまり、買い取った業者も大抵は取壊しをして更地にします。
業者はこの取壊し費用も計算して買値を決めるわけですが、業者なのである程度高く見積もられています。それなら自分で解体業者を手配して安く解体し、更地にしてから買い取りしてもらう方がいいということです。
※参考…新耐震基準と旧耐震基準の違いとは?大地震に備えて耐震リフォームを(ホームプロ)
特定のビジネスで有利と思われる立地の物件
「今はただの住宅にしているけど、○○のビジネスをした方が明らかに儲かるのではないか?」という立地条件もあるでしょう。極端な例ですが、秋葉原で古くから住宅を持っているという場合、それは取り壊して小さなビルにすることで、大きな利益を出せる可能性があります。
秋葉原のメインストリートにそのような古い建物はもうありませんが、少し脇に入ると民家が多くあるものです。民家と店舗・ビルが混在している状態ですが、そのような立地なら「ビジネスにも使える更地として売り出した方がいい」ともいえるでしょう。
秋葉原は典型的な例ですが、このように「特定の顧客層が集まり、特定のビジネスで有利な可能性がある」という土地は、更地にして売却すると成功する可能性があります。


更地にせずそのまま売却すべき物件
更地にせずにそのまま売るべき物件は下のようなものです。
以下、それぞれの条件について、詳しく解説していきます。
築浅の物件
築浅できれいな物件は、当然そのまま売り出すべきものです。築年数の短い中古物件は非常にコストパフォーマンスのいい買い物なので、それに絞って不動産を探している買主も多くいます。
更地にする一番のメリットは「売れやすい」ことですが、築浅の物件なら更地にしなくても売れやすいのです。解体費用もかからないため、まずはそのまま売り出してみるのがベストといえます。
リフォームすれば十分価値が出る物件
築浅とまでは言えなくても、リフォームすれば十分価値がでる物件というのもあります。ただの修繕のようなリフォームではなく、最近は物件をまったく別物のように蘇らせるリノベーションが流行っているものです。
古い家をリノベーションする場合、センスや技術の高い業者を選ぶだけで、成功度合いが大きく変わります。公式サイトで公開されている制作実績やWeb上での評判などを調べ、いいリノベーション業者を探してみましょう。
古民家などの希少価値のある物件
これはリノベーションにも通じる条件ですが、古民家などの希少価値のある物件はそのまま売る方がいいこともあります。不動産会社の中には「古民家専門」という会社もあります。そのような会社にコンタクトをとれば、予想以上に高く売れることもあるでしょう。
※参考…民家買取り・販売「ふるさと企画」
更地売却のメリット
更地売却のメリットは下の2点です。
以下、それぞれのメリットについて解説していきます。
売れやすい
家屋がある状態より、何もない更地の方が断然売れやすくなります。どれだけ魅力的な家でも、買主にとってはどこか不満な点が必ずあるはずだからです。
もちろん「完璧な物件でなくても安く中古住宅が買えるならいい」という買主も多くいます。そのような人に買い取ってもらえそうな物件なら、先にも書いた通り更地にせずそのまま売却すべきです。
最終的には物件によりますが、古い物件や個性が強すぎる物件などは、解体して更地にする方が売れやすいものです。
瑕疵担保責任がなくなる
瑕疵担保責任(かしたんぽせきにん)とは「売り渡した建物に何か不備があったとき、売主がとる責任」です。たとえば「水道管が壊れていた」など、普通の内覧や下見ではわからないようなトラブルが対象となります。
「瑕疵担保免責」として売り出せば、こうした責任は生じません。しかし、これだと売れにくいことが多いのです。「瑕疵担保免責ということは、何か問題のある物件ではないか?」と買主に疑われるわけですね。
この点、更地にして売却してしまえば、建物の問題自体が生じません。買主も売主のあなたも両方安心できるということです。
土壌汚染などの問題はないのか?
これはあります。本来、土地を売却する前には地盤調査・土壌調査をするのが理想です。しかし、これまでは「それは買主が買い取った後ですること」とされていました。
ところが、平成22年(2010年)1月20日の名古屋高裁での判例からこの流れが変わりつつあります。この判例のポイントをまとめると以下の通りです。
- 売主は「購入後に地盤調査・改良が必要になる可能性がある」と明記していた
- 買主もそれを理解して買った
- しかし、想像を超える252万円の工事費用が必要になった
これで裁判になったのですが、一審では売主が勝利しました。「工事費用がかかる可能性を明記していたのだから問題ない」という判決です。
しかし、これが二審で逆転しました。理由は「明らかに家屋を建てられないレベルの脆弱性だった」ためです。「建物を建てるために土地を買った買主にこの工事費用を負担させるのは酷である」と裁判所は判断しました。
ただ、その脆弱性も「調査をしなければわからないもの」だったため、売主側が「わざと隠した」とは判断されませんでした。そのため罰則などはなく「工事費用の252万円は売主が負担すること」という判決になったものです。
この判決からいえることは以下の通りです。
- たとえ売主が知らなくても、重大な問題が後で見つかれば、工事費用を負担しなくてはいけない
- それなら、最初から調査をして、必要があれば改良工事もしてから売り出すべき
もちろん「何も問題が起きない」可能性もあります。「問題が起きてからその費用を負担する」という考え方でもいいでしょう。
ただ、それだと「買主が買った後で何かしたのかもしれない」など、別の可能性が浮上します。状況が複雑になるので、やはり「先に調査・工事をしておくべき」といえるでしょう。
実際、上記の判決以降は「地盤調査済み」と明記されて売られる土地が増えており、そのような土地の方が買い手が付きやすくなっています。より早く土地を売ろうとしたら、地盤調査もしておくのが理想といえるでしょう。
※参考…分譲地の地盤が軟弱であるのは瑕疵に当たるとして、瑕疵担保責任に基づき、土地改良費用の請求を認容した事例(一般社団法人・不動産適正取引推進機構)※PDFファイル
更地売却のデメリット
更地にして売却するデメリットは「解体費用がかかる」ことです。解体の費用は一般的な一軒家で大体90~250万円が相場となっています。
この費用が出せないため、やむを得ず「建物付き土地」として売り出しているケースもあります。
「家財道具・不用品の処分」はデメリットではない
一部の情報サイトで「解体前に家財道具・不用品を処分する手間がある」のがデメリットと書かれることがあります。しかし、これは更地売却のデメリットではありません。理由は下の2点です。
- 古家つきでそのまま売る場合も、これらの処分はしなければいけない
- しないでも売れるが、価格は明らかに下がる
- 解体業者では、これらの処分も一緒にするサービスが多い
よく考えたらこれは当然で、解体業者は瓦礫のような「家財道具よりはるかに厄介な廃棄物」を処理するわけです。それに比べたら、不用品や家財道具の処分など余裕といえます。
もちろん別料金はかかりますが、むしろ解体と一緒に頼む方が処分費用が安くつく可能性もあるでしょう。
※参考…不用品処分(解体サポート ※有限会社グエル・パラッシオ運営)
更地売却に必要な費用の種類と相場
更地売却に必要な費用の種類と目安の金額をまとめると、下記のようになります。
以下、それぞれの費用について詳しく説明していきます。
解体費用…90~250万円(おおよその相場)
更地売却でもっとも費用がかかるのは建物の解体です。この相場は見出しの通り、おおよそ90万円~250万円となっています。この計算の根拠は下記の通りです。
- 1坪あたりの相場が2.5万円~7万円である
- 平均的な一戸建ての坪数は約35坪である
- ここから計算すると90~250万円となる
それぞれ詳しく解説していきましょう。
1坪あたりの相場は2.5万円~7万円である
あくまで目安ですが、延床坪で1坪あたりの相場は下のようになっています。
家屋の種類 | 延床坪数あたりの値段 |
---|---|
木造家屋 | 2.5万円~6.0万円×延床坪数 |
鉄骨家屋 | 3.0万円~6.5万円×延床坪数 |
RC家屋 | 3.5万円~7.0万円×延床坪数 |
※参考…解体工事費用の相場とは?(家屋解体見積.com ※GoalSeek運営)
次に「一般的な家屋の延床坪数の平均値はいくつか」を調べます。
平均的な一戸建ての坪数は約35坪である
平均的な戸建住宅の坪数については、All Aboutで下のように書かれています。
理想の住まいの広さは3人家族で約30坪、4人家族で約38坪程度となります。
住まいの広さはどのくらいが基準になる?平均的な面積は?(All About)
現代では3~4人の家族が多く、上記は理想の広さ(誘導居住水準)のため、平均的な戸建て住宅の延床坪数は「35坪」といえます。
なお、上記の数値は国土交通省が「住生活基本計画」で定めたものです。そのため、ある程度確かな数値といえます。
ここから計算すると90~250万円となる
ここまでのデータから計算すると、下のようになります。
- 2.5万円×35坪=87.5万円
- 7.0万円×35坪=245万円
実際の解体費用には、さらに工事費として諸費用がかかります。具体的には下のようなものです。
- 廃棄物処分費
- 付帯工事費
- 事務処理費
- 養生費
これらをすべて合わせた金額のため、87.5万円~245万円よりは少し高くなります。いずれも工事費用を含むともう少し高くなるため、90~250万円としました。

※参考…木造家屋30~40坪の解体費用例(解体サポート ※有限会社グエル・パラッシオ運営)
建物滅失登記費用…約4~5万円
建物を解体して更地にしたら、法務局で「建物滅失登記」をする必要があります。これは自分でやればほぼ0円ですが、土地家屋調査士に依頼すると4~5万円程度の費用が必要です。
(下の田中良知事務所では、最多価格が4.5万円となっています)
※参考…建物滅失登記・作業完了までの流れ(土地家屋調査士 田中良知事務所)
なお、不動産に関する登記では司法書士に依頼することが多いものですが、滅失登記に関しては土地家屋調査士に依頼します(司法書士では対応できません)。
譲渡所得税…土地が売れた金額の約20%~40%
譲渡所得税は、簡単にいうと「売却税」です。土地を売って得た利益にかかる税金を指します。
普通の所得税にきわめて近いものですが、給与などにかかる所得税と、不動産を売って得られた利益にかかる所得税は別々に計算されます。そのため、譲渡所得税という名前がついています。
譲渡所得税の計算方法
譲渡所得税を計算するには、まず「譲渡所得金額」を出します。この計算方法は下記の通りです。
譲渡所得 = 譲渡収入金額 -(取得費 + 譲渡費用)
譲渡所得の計算方法(三井不動産リアリティ)
それぞれの単語の意味は下記の通りです。
譲渡所得 | 課税対象になる金額。譲渡所得金額ともいう |
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譲渡収入金額 | 単純に売却した金額。いわゆる売上。譲渡所得は利益 |
取得費 | 建物・土地を買ったときの費用 |
譲渡費用 | 売るためにかかった諸経費 |
より簡単に書くと下記のようになります。
- 譲渡所得…利益
- 譲渡収入金額…売上
- 取得費・譲渡費用…コスト


譲渡所得税の税率
譲渡所得税率は、譲渡が「長期か短期か」で2種類に分かれます。
- 長期譲渡所得…20.315%
- 短期譲渡所得…39.63%
このようにかなり細かい数値になりますが、おおよそ20%~40%といえます。長期・短期の違いは以下の通りです。
- 長期…所有期間が5年超
- 短期…所有期間が5年以下
長期譲渡所得については、「10年超所有軽減税率の特例」というものもあります。この場合は、課税譲渡所得の金額によって下のように税率が変わります。
6000万円以下の部分 | 14.21% |
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6000万円超の部分 | 20.315% |
つまり、もっとも安いときは約14%となりますが、基本的には20~40%と思っておくといいでしょう。
不用品処分費用…状況による
古家付きの土地の場合、その古家の中に不用品や家財道具があることも多いものです。中にはゴミ屋敷のようになっている古戸建もあるでしょう。
このようなケースで処分費用がいくらかかるかは、ケースバイケースです。下のリンク先の記事によれば、3LDK~4LDKで大体20万円~30万円です。
※参考…ゴミ屋敷の片付け料金(遺品整理ドットコム ※株式会社modecas運営)
一戸建ての平均的な広さで、その家がすべてゴミ屋敷になっていたらこのくらいの料金ということです。正確には広さだけでなくゴミの物量も条件に加わっていますが、概ね上のような金額になると思ってください。
更地売却にかかる期間の目安
更地売却にかかる期間・日数の目安は、手続きや作業の内容ごとに大体下のようになっています。
以下、それぞれ詳しく解説していきます。
解体期間…5日~10日
建物の解体にかかる日数はおおむね5日~10日程度です。わかりやすく「1週間」と考えてもいいでしょう。
中には1カ月や数カ月かかるケースもありますが、これは下のような条件の場合です。
- 大型の建物である
- 工事がしにくい場所に建てられている
一般的な戸建て住宅であれば、ほとんどは上記の通り5~10日程度と考えて下さい。


不動産会社の選択期間…1カ月
売却する不動産会社を選択するのにも、ある程度の期間がかかります。この期間は人によりますが、仕事や家事育児などの用事をこなしながらと考えると、大体1カ月程度かかることが多いでしょう。
不動産会社を決めるまでの流れは、一般的に下のようになっています。
- 一括査定を受ける
- 良さそうな数社に絞り込む
- 実地査定を受け、1社に絞る
他の流れもありますが、上記の流れだと大体数週間~1カ月かかると思ってください。建物と違い更地の売却については1カ月遅れるだけで価格が大きく下がるということはありません。
不動産会社の選択がよければ売値が数十万円は当然として、場合によっては数百万円上がることもあります。焦らずにじっくりといい不動産会社を選び、契約するようにしましょう。
売却期間…3カ月~1年(条件による)
更地がどのくらいの期間で売れるかは、完全に物件次第です。人気のある立地なら高値でも早期に売れます。逆に不利な立地であれば安値でもなかなか売れないこともあるでしょう。
物件の条件もありますが、不動産会社の販売力も影響します。そのため、不動産会社の選択はくれぐれも慎重にしましょう。
おおよその売却期間ですが、3カ月~1年程度と思ってください。土地の価値は家屋と違って年数が経過しても落ちませんが、毎年固定資産税がかかります。
また、何年も売れない状態はストレスになるため、できれば1年程度で決着をつける気で望むといいでしょう。
まとめ
以上、建物を更地にして売却するメリットやデメリット、かかる費用や日数などについてまとめてきました。最後に特に重要なポイントを整理すると、以下の通りです。
- 更地にするメリット…売れやすい
- 更地にするデメリット…解体費用がかかる
- 解体費用の相場…90~250万円
自身の物件が「更地にすべき物件かどうか」という点から検証し、解体費用や予想売却価格などを計算し、ベストの売却をできるようにしましょう。