借地に建てた家も売ることができます。最初にポイントをまとめると、下記の通りです。
- 地主の許可を得れば売れる
- 許可されなかった場合、裁判所の許可があれば売れる
- 土地の権利がない状態では、家はある程度買い叩かれる
最後の「買い叩かれる」というデメリットを小さくするには、下のような方法があります。
以下、この2つの方法も含めて、借地に建てた家を売るときのポイントや注意点についてまとめていきます。借地に建てた家を売りたいと考えている方には、きっと参考にしていただけるでしょう。
Contents
借地に建てた家を売る3つの方法
借地に建てた家を売る方法は、主に下の3つがあります。
以下、それぞれの方法について解説していきます。
「借地権付き建物」として売る
土地の所有権を持っていない建物でも、そのまま売ることができます。借地権付き建物を扱っている不動産会社でなければいけませんが、多くの会社が扱っているので、この点は特に問題ないでしょう。
ただ、借地権しかないというのは買い手にとってはマイナスとなります。そのため、本来の住宅の価格より買い叩かれる可能性は高くなるものです。
土地を地主から買い取り「所有権のある家」として売る
可能であれば、地主から土地を買い取って「土地権利も含めてすべての所有権のある家」として売るのがいいでしょう。この時の注意点は下の通りです。
- 地主が「土地全体の価格」で買い取るように要求することがある
- しかし、土地全体の価格で買い取る必要はない
- 一般的な相場は大体「4割程度」
どういうことかというと、1億円の土地だったら「4000万円で買える」ということです。地主が「この土地は1億円だから1億で買ってほしい」といっても応じる必要はありません。
借地権は60%、底地権は40%が基本
個別の契約内容によって異なりますが、借地に家を建てている場合、その土地の権利の60%を借り主が持っていることが多いものです。借地に関する権利は「借地権・底地権」に分かれ、それぞれの権利者は下記のようになります。
- 借地権…借り主
- 底地権…貸し主(地主)
そして、それぞれ土地に対して下の割合で権利を持っているということです。
- 借地権者…60%
- 底地権者…40%
意外かもしれませんが「権限が大きいのは借主の方」なのです。貸主(地主)の方ではないんですね。このため、たとえば土地価格が1億円だったら、「土地も買い取ってから家を売る」という方法で必要な初期コストは4000万円となります。
(もちろん、不動産屋の仲介手数料などは別途かかります)
地主と共同して土地・家をセットで売る
できるならこれは理想的な方法といえます。理由は下の通りです。
- 借地権・底地権は単独では価値が落ちる
- どちらも片方では不自由なので、買い主が見つかりにくい
- しかし、セットなら本来の価値で売れる
売る側の二人(あなたと地主)にとってはセットですが、その家と土地を買う人にとっては「普通の土地つき建物」です。権利が本来バラバラであることなど関係ないので、本来の価格で売ることができます。
(それぞれの権利がバラバラということは、正式に契約をする段階ではわかるでしょうが、地主と借り主が仲良く共同しているのであれば何も問題は起きないでしょう)
「借地権付き建物」として売るときの3つのポイント
借地権付き建物として家を売る場合は、下のような3つのポイントがあります。
以下、それぞれのポイントについて説明していきます。
地主から「借地権譲渡承諾」をもらう必要がある
借地に建てた家を売るには、地主から許可をもらう必要があります。この許可を法律用語で「借地権譲渡承諾」といいます。
この承諾は「誰に売るか」「その人は何に使う予定か」によっても変わるでしょう。このような点も購入希望者・地主と綿密にコミュニケーションをとりながら、話し合いを進める必要があります。
譲渡承諾料の相場は「借地権価格の10%」
借地権譲渡承諾料の相場は、一般的に「借地権価格の10%」とされています。借地権価格の算定方法で最もわかりやすいものは「更地価格の60%」です。
つまり、更地にして売却するときの価格が1000万円だとしたら、借地権価格は600万円です。その10%が承諾料になるので、60万円を地主に払うことになります。
マイホームが建つような土地なら大体数千万円の更地価格となるので、その10%は数百万円と考えていいでしょう。
地主が承諾しない場合は、裁判所が認めれば許可をもらえる
売却を地主が承諾してくれないこともあるでしょう。この場合は、裁判所に訴えて認められれば、裁判所の許可によって家と借地権を売ることができます。裁判所の公式ホームページでは下のように書かれています。
借地権者は,土地の賃借権譲渡許可の申立てをして,裁判所が相当と認めれば,土地所有者の承諾に代わる許可の裁判を受けることができます。
裁判所「借地非訟とは」
ただ、この方法で売るのはあまり望ましくありません。裁判の記録は公開されるものなので、その物件で借主のあなたと地主が争っていたことはわかってしまいます。
そのような物件では「自分が買った後もトラブルが起きるかもしれない」と考える買い手が多いでしょう。そのため売れにくくなるか、売れても安値で買い叩かれることになります。
このようなケースに陥らないためにも、地主との関係は日頃から良好に保っておきたいものです
「土地を地主から買い取って売る」方法のポイント・注意点
土地の権利を地主から買い取った後で売る方法の場合、下のようなポイントと注意点があります。
以下、それぞれのポイントと注意点についてまとめていきます。
地主が同意しなければ不可。裁判所も介入できない
借地権付きの家として売るときと同様、土地を買い取るときもやはり地主の合意が必要です。そして、地主が「売ってもいい」といわない限りは、どれだけの大金を積んでも買い取ることはできません。
借地権のときは、それでも裁判所が介入すれば売ることができました。しかし、土地の買い取りではよほど特殊なケースでなければ裁判所も介入できないのです。




上記のような理由で、借地権の売却を地主が拒否するなら、裁判所に訴えることができました。しかし、土地の所有権(底地権)については、それはできないのです。底地権は「完全に地主の持ち物」だからです。
底地権の買い取りは難航することが多い
「借家の土地を買いたいけど地主が売ってくれない」という悩みは、インターネットの掲示板などにも多く書かれています。一度でも地主に断られた底地権の買い取りは、難航することが多いと考えて下さい。
理由はいくつかありますが、地主側も下のような事情を抱えているケースがあるためです。
- 先祖代々の土地なので、親族の手前簡単に売るわけにはいかない
- 複数の土地を借地に出しており、1カ所売ったら他も売らなければいけなくなる
- 将来的に土地を使用する計画がある
このように「金額だけの問題ではない」上に、先に書いた通り「裁判所も介入できない」ので難航することが多いのです。
相続などのタイミングで地主側から売りにくるのを待つ手もある
例えば地主が高齢の方の場合、病気などで亡くなられたときに、そのお子さんや配偶者などが相続することになります。ご本人は「売りたくない」と言われていたとしても、相続したご家族も同じかというと、違う可能性もあるでしょう。
一般的に、相続のタイミングは不動産が動きやすいものです。故人にとっては必要だった不動産が、遺族にとっては不要ということがしばしばあるからです。

このように、地主側の事情が変わって「先方から売りに来る」という可能性もあります。この場合は、あちらが売りたがっているわけですから相場よりも安い価格で売ってもらえる可能性もあるでしょう。
借地に建てた家を売るのがしばらく後でもいい場合、このような長期戦で臨む選択肢もあります。
借地に建てられた父母の家を相続放棄することはできる?
借地に建てられた家は、自分で建てた家ではなく両親や祖父母が建てた家、ということもあるでしょう。そして、その家が古い木造建築など「売れそうにない」という場合、相続放棄も考えるかと思います。
借地に建てられた家を相続放棄する時のポイントを一覧にすると、以下の通りです。
以下、それぞれのポイントについて詳しく解説していきます。
相続放棄をするとその他の権利も失う
相続放棄をすると、実家以外の財産についても相続できなくなります。たとえば両親が多額の現金を遺産として残している場合、厄介な実家を引き継いだとしても、トータルでプラスになる可能性があるでしょう。このような場合は相続放棄をしない方が得策だといえます。
相続放棄をしても、次の所有者が見つかるまでは物件の管理責任がある
相続放棄をしても、その物件を引き取る次の所有者が現れなければ、空き家のままになります。空家を放置していると犯罪者の拠点になる、災害で崩壊するなどの事態につながり、隣近所に住む人々の迷惑になるものです。
このため、相続放棄をしても、新たな所有者・管理人を見つけるまでは、子供や兄弟姉妹などの関係者が管理しなければいけないと民法で決まっています。「相続放棄をすればすべて解決」というわけではないことを理解してください。
借地に建てた家を解体して処分する方法
借地に建てた家がそのままでは売れないと予想される場合、解体して更地の状態で売る選択肢もあります。その時のポイントをまとめると、以下の通りです。
以下、それぞれ詳しく説明していきます。
解体費用の相場は90~250万円程度
建物の解体費用は当然物件によって異なります。しかし、一般的な40坪の住宅の場合、解体費用の相場は90~250万円前後といえます。
詳しい計算については下の記事をご覧ください。
更地にして借地権を売る方法
更地にしたら建物は消えますが、借地権は残っています。この借地権を建物があるときと同様売ることが可能です。
「借地なのはいいけど、住まいは自分の好きな間取りで建てたい」という買い手もいるでしょう。そのような買い手にとっては、この方法で売る方が売れやすいといえます。
更地にして地主に買い取ってもらう方法
更地にした後、地主に買い取ってもらうという方法もあります。ただ、これは交渉が難航することも多いものです。
理由は、地主からしたら「もともと自分の土地なのに何で自分が支払いをするのか」「しかも土地の価格の6割なんていう金額を」と思うのです。
地主が借地権を他院に与えた時点で、その土地の権利の6割を売ったのと同じですから、上記の論理は本来通じないものです。ただ、上のように考える地主がいてもおかしくはありません。
地主に強制的に買い取らせることはできない
地主が買い取りに合意しない場合、裁判所などが介入して強制的に買い取らせることはできません。そのため、地主が買い取ってくれないなら、自分で第三者の買い手を見つける必要があります。
第三者の買い手に売ることに関しては、地主はそれを止めることはできません。借地権はあなたのものなので、それを誰に売ろうと勝手だからです。
一応、底地権は地主のものなので、地主の承諾を得る必要があります。しかし、地主が承諾しなかった場合は「借地非訟」によって、裁判所の許可によって借地権を売ることができます。
(これは先にも書いた通りです)
まとめ
以上、借地に建てた家を売る方法や注意点について解説してきました。最後にポイントをまとめると、下のようになります。
- 家は「借地権付き住宅」としてそのまま売れる
- 地主の許可がなくても裁判所の許可があれば売れる
- できれば土地の所有権とセットで売れる方がいい
- 地主から買い取る、地主と共同して売るというのが理想の選択肢
借地に建てた家を売る際に限らず、不動産の管理や処分というのは一筋縄ではいかないものです。手続きが大変に感じることもあるでしょうが、信頼できる不動産業者・弁護士などに相談しながら、少しずつ売却を進めるようにしてください。