昔よりも不動産の情報サイトが増え、多くの人にとって不動産投資が身近になりました。収益物件を複数持っている人も少なくないでしょう。
収益物件はずっと賃貸などで運用を続けるべきケースもあれば、売却すべきケースもあります。どのようにすれば売却が上手くいくか、どのようなタイミングで売却すればいいのか、などの点が気になる人も多いでしょう。
この記事では、そうした疑問に答えるために、収益物件の売却についてまとめていきます。現時点で持っている収益物件の売却を考えている方には、きっと参考にしていただけるでしょう。
収益物件がマンション・一戸建てなどの居住用の物件であれば、イエウールのようなサービスで一括査定を受けるのもおすすめです。オーナーチェンジ物件なら投資用としてしか売れませんが、現時点で空室なら居住用物件としても売れます。
収益用・居住用の両方で多くの業者から査定をうけることで、さらに高い値段で売却しやすくなるでしょう。イエウールについては下の記事で詳しく解説しているので、一括査定に興味がある方はぜひ参考にしてみてください。
- 収益物件の売却を成功させるためのポイント
- 収益物件を売却すべきタイミング
- 収益物件の売却でかかる税金
- 収益物件の売却で必要な費用
- 収益物件の査定は、どんな方法で行われるか
- 収益物件の売却と利回りの関係
- 収益物件の売却で消費税はかかるのか
Contents
収益物件の売却を成功させる2つのポイント
以下、それぞれのポイントについて説明します。
その物件の特性に合った業者に相談する
不動産の個性は物件によってさまざまで、それは収益物件でも同じです。ここでは、収益物件の種類や特性ごとに、どのような業者に相談するべきかを解説していきます。
以下、それぞれ詳しく説明していきます。
マンション
収益物件としてマンションを持っている方は多いでしょう。収益マンションの売却は、マンションの買い取りや仲介を得意としている業者に頼むのがベストです。
そのような業者は、マンション専用の一括査定などのサービスに集まっています。たとえば下記のIESHIL(イエシル)などです。
イエシルは非常に優れた一括査定サービスですが、対象が首都圏に限定されています(東京都・千葉県・神奈川県・埼玉県)。このため、これらのエリア以外のマンション一括査定のサービスとしては、Smoola(スモーラ)をおすすめします。
スモーラ(Smoola)の評判・クチコミは?一括査定・相場情報は信用できる?
一戸建て
一戸建ては、マンションと違い「特化している一括査定サイト」というものはありません。しかし、一戸建ての売却ならではのポイントや注意点などはあります。
一戸建ての売却については下の記事で詳しく解説しているので、こちらを参考にしていただけたらと思います。
オーナーチェンジ
現時点で入居者が住んでいて、その状態で売却するオーナーチェンジ物件もあるでしょう。オーナーチェンジ物件は多くの不動産会社が問題なく扱っているものですが、中には扱っていない、あるいは難色を示す業者もいます。
理由はそれぞれですが、主なものは「入居者がいるため、部屋の状況を確認できない」ことでしょう。瑕疵物件ではなかったとしても、やはり部屋の雰囲気などは確かめて購入したいものです。
そのように考えてオーナーチェンジ物件を敬遠する業者もいますが、積極的に買い取ってくれる業者もいます。そのような業者や、オーナーチェンジ物件の売却についての詳細は下の記事をご覧ください。
空ビル
事業用として一棟ビルを持っている方もいるかもしれません。あるいは一棟でなくても、ビルの一室を収益物件として所有している方もいるでしょう。
このような空ビルの売却は、業者によっては引き受けてくれないこともあります。現時点で空いているということは、今後も空室が続く可能性があり、そのような物件を有効活用する自信がない業者も多いためです。
しかし、逆に「リノベーションしやすい」などの点に魅力を感じ、空ビルを積極的に買い取る業者もいます。そうした業者の紹介も含め、空ビルの売却については下の記事を参考にしてみてください。
一括査定を多めに受ける
これは収益物件だけでなく居住用物件でも同じですが、一括査定はできるだけ多く受けるべきです。
- 業者を競争させることで、より高い買取価格を引き出す
- 自らも多くの査定価格を見ることで、相場を正しく把握できる
- 一括査定を受けることには、リスクやデメリットが一切ない
このようにデメリットがなく「やればやるほど有利になる」ものなので、積極的に受けた方がいいのです。
どの一括査定を受けるべきか
これは、無料である以上どれでもかまいません。「登録すると強引な営業電話がかかってくる」などのデメリットもありません。
「電話でなくメールのみで査定を受ける」という方法を選択できますし、強引な業者はその一括査定サービスに通報すれば、運営サイトで対処してくれます。
そのため、時間が許す限り多めに一括査定を受けるのがいいでしょう。その中でも、あえて特におすすめのものをあげると、NHKデータグループが運営しているホームフォーユーがあります。
また、東証1部上場企業のLIFULLが運営している、ライフルホームズもいいでしょう。これらの一括査定を有効活用することで、収益物件の売却も有利になると言えます。
収益物件を売却するタイミング
収益物件の売却では、当然タイミングも重要です。タイミングに関するポイントをまとめると、下のようになります。
以下、それぞれのポイントについて説明します。
デッドクロスの前
デッドクロスとは「減価償却費と元金返済金が逆転する時点」です。
- 減価償却費…実際にお金が出ていっていないのに、経費にできる
- 元金返済金…実際にお金が出ているのに、経費にできない
投資をしている方ならよくご存知でしょうが、経費は「できる」方がいいのです。節税効果があるためです。
節税効果があるといっても、実際にお金を使うと「手元のお金が減ってしまう」ので、不利になります。税理士がよく「妙な節税よりも、税金を支払って手元にお金を残すことを考えましょう」というのは、そのためです。
しかし「実際にお金を払っていないのに、一定の金額を経費にできる」としたら、どうでしょう。この節税効果はきわめて大きいものです。これをできるのが「減価償却費」です。


逆にいうと、30年分の減価償却費を初年度に払っても「初年度は、そのうち29年分を経費にできない」ともいえます。


ところが、その「有利」が終わる段階があります。それが「デッドクロス」です。
「ローンの元金を返済する分」は経費にならない
支出はすべて経費にできるわけではありません。「住宅ローンの元金を返済するお金」は、経費にならないのです。


しばらくは減価償却費の方が大きく「有利な会計」の金額が大きくなります。しかし、減価償却費は年々減少していくので、ある段階で「元金返済金の方が大きくなってしまう」のです。
元金返済金も徐々に小さくなっていくが…
実は、減価償却費だけでなく元金返済金も年々減っていきます。


このため、場合によっては「デッドクロスが発生しない」という可能性もあります。しかし、多くの場合は発生します。
デッドクロスが発生したら、なぜ売るべきなのか
これは「節税でのメリットが消滅した」ためです。もちろん、他のメリットが大きければ、まだ物件を持ち続ける意味はあります。
しかし、一つの大きなメリットが消滅したということは、それだけで「売却を検討する材料」となります。全員が全員、デッドクロス前に売却しているわけではありませんが、一つのわかりやすい基準として、デッドクロスが用いられる例は多いものです。
大規模修繕などの大きなキャッシュアウトの前
キャッシュアウトとは「支出」のこと。大規模修繕は特にマンションで見られるものですが、一時的に大きな金額が必要になることが多いものです。


このあたりは、完全にマンションによります。管理組合がしっかりしているところは、
- 早めに修繕費用が足りないことに気づく
- 毎月の積立金額を少し増やす
- あるいは「無駄な支出」を出さない
- それによって修繕費用を確保する
このように「一時金なし」で、積み立てたお金だけで大規模修繕を成功させます。しかし、管理組合や管理会社がこのようにしっかりしていないマンションでは、大規模修繕のために数十万円~100万円程度のお金を要求されることがあるのです。


収益物件がマンションの場合、このように大規模修繕で大きな支出が発生することがあります。その前に売却するというのは、一つのタイミングの目安になるでしょう。
キャピタルゲイン(売却益)が出るとき
これは誰もが真っ先に考えることでしょう。「買ったときより値段が高くなった」というときに売れば、キャピタルゲイン(売却益)が出ます。このようなときに売るのは、非常に有利な選択肢です。
微妙な利益なら損することもあるが…
収益物件の売却では、税金や業者の仲介手数料など、さまざまな費用が発生します。これらのコストを考えると「微妙な利益」では損するケースもあります。
そのため、実際にキャピタルゲインが出るかどうかは、すべてのコストを綿密に計算した上で判断する必要があります。


逆に「特に思いついていない」「売ってもただの貯金にして終わりそう」という場合は、そのまま持ち続けてもいいかもしれません。最終的には物件次第、その投資家さんの方針次第となります。
補足…ベストのタイミングは誰にもわからない」のが前提
収益物件の売却でも株の売却でもいえることですが、ベストのタイミングは誰にもわからない、という前提を意識する必要があります。わかれば誰も投資で失敗していないわけです。
東証1部の大企業でも、大規模な設備投資などでしばしば失敗します(シャープの亀山工場など)。経営は投資よりも「自分たちの努力で結果を変えられる」ものですが、それでもこのように未来予測に失敗するのです。
そのため、収益物件の売却についても、
- 最高のタイミングはプロに相談してもわからない
- 自分も最高のタイミングで売却できる可能性は低い
- そのため、7~9割程度満足できるなら、十分売る価値がある
という風に考えるのがいいでしょう。


最終的にどのあたりで満足して売るかは、その人の人生観や投資哲学にもよります。確かなことは、経験を積むことと研究を重ねることは不可欠ということです。
収益物件の売却でかかる費用
収益物件の売却でかかる費用を一覧にすると、下のようになります。
以下、それぞれ解説していきます。
測量費用
収益物件が土地(あるいは土地つき建物)で、測量が必要な「実測売買」の場合にかかります。実測売買の反対は「公簿売買」ですが、この場合は測量費用はかかりませえん。
(公簿売買…登記簿に書かれている面積での売買)
相場は30万円~50万円
測量費用の相場はケースバイケースですが、おおよそ30万円~50万円とされています。詳しくは下の記事をご覧ください。
印紙税
印紙税は「収入印紙の代金」です。「税」とついていますが「印紙代」といった方がわかりやすいでしょう。
収入印紙とは
切手のようなものです。契約書や金額の大きい領収書に貼り付けます。
印紙税の金額
印紙税の金額は、売買契約書に書かれている金額ごとに下のようになります。
100万円超~500万円以下 1000円 500万円超~1000万円以下 5000円 1000万円超~5000万円以下 10000円 5000万円超~1億円以下 30000円 1億円超~5億円以下 60000円 5億円超~10億円以下 160000円
なお、この金額は「2020年3月31日まで」のものです。この日付までに作られる売買契約書については、この印紙税になります。これを「印紙税の軽減措置」といいます。
現時点で2019年2月なので、あと1年1カ月は上記の印紙税になります。軽減措置が終わると上記の2倍になります。
仲介手数料
不動産会社に仲介してもらった場合、仲介手数料がかかります。仲介手数料は業者によって異なりますが、おおよそ下のような金額になります。
(契約金額ごとの相場を記しています)
200万円以下 | 売却価格×5% |
---|---|
200万円超~400万円未満 | 売却価格×4%+2万円 |
400万円以上 | 売却価格×3%+6万円 |
いずれも、上記に加えて消費税がかかります。
司法書士報酬
登記手続きを司法書士に依頼する場合、司法書士に支払う費用がかかります。金額は司法書士によって異なりますが、抵当権の抹消なら1~2万円程度が相場です。
抵当権の抹消も含めて、司法書士に依頼すべき手続きや費用の相場については、下の記事を参考にしてみてください。
名義変更の手続きは依頼すべき?
抵当権の抹消については「もう住宅ローンを完済している」という場合、必要ありません。完済時点で抹消しています(そのときに司法書士に依頼しているかもしれませんが、どちらにしてもすでに終わっています)。
その場合、収益物件の売却で司法書士に依頼する手続きは、主に「名義変更」です。売却したということは、所有権が買い手に移るわけです。その所有権の名義変更を依頼します。
そのときの費用相場については、下の記事をご覧ください。
ローン解除費用(繰り上げ返済手数料)
これは銀行などの金融機関に対して支払う費用です。簡単にいうと「違約金」のようなものだと思ってください。
抵当権抹消の手続きをする費用を指すこともありますが、それは司法書士に支払うものです。その意味の場合は、上で書いた「司法書士報酬」に入ります。
ローン解除費用の相場
これは金融機関やローン商品によって千差万別で、1万円~2万円というパターンが多く見られます。しかし「残債の1~7%」という情報もあります。
後者は収益物件の情報サイトで日本最大級の情報サイト「楽待」によるもの。「1-3.物権売却に必要な費用」という記事で、表の中に「ローン解除費用/金融機関により異なる/残債の1~7%程度」と書かれています。
楽待の情報なので確かだとは思いますが、もしこれが正しければかなりの高額になります。500万円の残債くらいならよくあるでしょうが、その場合「5万円~35万円」ということです。
繰り上げ返済をする時期にもよる
このルールは「いつ繰り上げ返済をするか」にもよります。たとえば住宅金融公庫のルールでは「最初の10年以内に全額繰り上げ返済をする場合、残債×5%が違約金になる」というルールだったようです。これはイオン銀行の住宅ローンに借り換えをしたサラリーマンの方のブログに書かれています。
なぜ繰り上げ返済手数料が必要なのか
これは、携帯電話の「2年縛り」のようなものです。2年経過する前に解約すると、違約金を支払う必要があります。これと同じように、途中でローンを解除したら「銀行が損した分」の補償をするわけです。
最終的にいくらかかるかは「銀行・金融機関次第」なのですが、数万円のこともあれば、数十万円になることもあると思って下さい。これから収益物件を住宅ローンで買おうとしている方は、繰り上げ返済して売却するケースを想定し、繰上返済手数料が安い銀行を選ぶことも考えるといいでしょう。
(なお、共有持分の話題ではありますが、ローン解除にかかる費用については、下の記事でも詳しく解説しています)
収益物件の売却でかかる税金・5種類
収益物件を売却すると、下の5種類の税金がかかります。1~3の「譲渡所得税・住民税・復興特別所得税」については「利益が出たときのみ」課税されます。4・5の「登録免許税・印紙税」は必ず課税されるものです。
以下、それぞれ詳しく説明していきます。
譲渡所得税
これは、要は「所得税」です。住民税と違って国が徴収するものなので「国税」とも呼ばれます。以下、下のように項目を分けて説明していきます。
譲渡所得税の税率は?
これは「15%」か「30%」です。2種類ある理由は「長期譲渡・短期譲渡」で分かれるためです。
- 長期譲渡…15%
- 短期譲渡…30%
となっています。短期譲渡の方が長期譲渡より「2倍税率が高い」ということですね。
長期譲渡・短期譲渡とは?
それぞれ下のような意味です。
- 長期譲渡…5年超所有(してから売却)
- 短期譲渡…5年以下の所有(してから売却)
要は「5年が境目」ということです。
なぜ長期譲渡だと税率が低いのか
これは「過剰な転売を防止する」ためです。転売が過剰になるとバブルになります。それを防ぐために、
- 長期間保有…優遇(税金を安くする)
- 短期間保有…冷遇(税金を高くする)
という区別をしているのです。
「15.315%」と「30.63%」ではないのか?
不動産や税金の知識がある人なら、前記の「15%・30%」という税率に違和感を覚えるかもしれません。「15.315%、30.63%ではないのか?」という疑問を持つわけですね。
実は、これらの税率は「譲渡所得税に、復興税を追加した税率」です。本来の譲渡所得税は「15%・30%」なのです。
復興税については後ほど説明します。
住民税
住民税は、都道府県・市区町村に対して支払う税金です。徴収するのが市区町村なので「市区町村だけに払う税金」と思っている人もいるかもしれませんが、都道府県にも払っています。自治体によって異なりますが、大体半分が都道府県の取り分です。
このように「地方自治体」がとる税金なので、譲渡所得税の「国税」に対して「地方税」と呼ばれることもあります(地方税はその他にも自動車税・個人事業税・固定資産税などがあります)。
住民税の税率は?
これは、長期譲渡・短期譲渡で下のように分かれています。
- 長期譲渡…5%
- 短期譲渡…9%

住民税には復興税はかからないのか?
これはかかりません。復興税の正式名称は「復興特別所得税」です。「所得税」という文字が入っている通り、住民税は関係ないのです。
復興特別所得税
復興特別所得税は、2028年までかかるものです(2013年1月1日から25年間)。
復興特別所得税の税率は「2.1%」です。注意すべきことは、これは「譲渡所得税に対してかかる」ということ。
- 譲渡所得税…利益全体にかかる
- 復興特別所得税…「譲渡所得税」にかかる
つまり、わかりやすく順番でいうと「利益>譲渡所得税>復興税」となるわけです。
復興税は「15%や30%の2.1%」である
先にも書いた通り、譲渡所得税の税率は、長期・短期でそれぞれ「15%・30%」でした。譲渡所得税はこれらの数値に対して「2.1%」を掛けます。
つまり、式でいうと下のようになります。
- 長期譲渡…15%×2.1%
- 短期譲渡…30%×2.1%
そして、それぞれの計算結果は下のようになります。
- 長期譲渡…0.315%
- 短期譲渡…0.63%


上記が「復興税のみの分」です。これともともとの「15%・30%」を合計すると「15.315%、30.63%」となります。復興特別所得税も譲渡所得税も「同じ所得税の仲間」なので、この合計値を「収益物件の売却での所得税」とする人もいます。
登録免許税
登録免許税は「登記の手数料」というべきものです。あなたが収益物件を売却したら、所有権が買い手に移ります。その登記をするわけですが、その手数料が登録免許税となります。
登録免許税の税率は?
これは「2%」です。正確に法務局の言葉でいうと「1000分の20」です。もっとわかりやすくいうと「100分の2」です。
実は登録免許税は「登記内容」によって変わります。収益物件の売却のような「売買」では、2%です。
売買ではない「相続」や「抵当権設定登記」などは、1000分の4(0.4%)となります。
印紙税
印紙税は「収入印紙の代金」です。登録免許税と同じく、利益が出ていなくても必ずかかります(譲渡所得税・住民税などは利益が出ていなければかかりません)。
印紙税についてはこちらの段落で解説しています。
収益物件売却での査定・3つの方法
収益物件を売るときの査定は、主に下の3つの方法によって行われます。
以下、それぞれの方法について解説していきます。
原価法
原価法とは、不動産の「再調達原価」を用いる方法です。再調達現価とは下のようなものです。
- その建物を今新築すると、いくらかかるか
- その土地を今、新しく造成するといくらかかるか
建物にしても土地にしても「その不動産を今、新しくつくるといくらかかるか」という金額、それが再調達原価です。
その金額から「劣化分」を差し引く
当然ながら、今売ろうとしている物件は「新築」ではありません。建物だったらある程度劣化しているわけです。
- 今、同じ一戸建てを新築するとしたら、3000万円だ
- しかし、この建物は築10年だ
- だから、10年劣化した分を差し引こう
このように計算して、例えば「2000万円」などの価格をつけるわけです。


「買った時代の価値」と「現代の価値」が違う
お金の価値は時代によって変わります。60年前の日本の物価や人件費は、大体今の30分の1でした。
そのため、60年前に1億円かかった物件は、今新しく作るとすると「30億円」になります(先ほど話した再調達原価)。
それにもかかわらず「1億円で買ったらしいけど、60年でだいぶ劣化してるから、今は大体500万円だよね」などとは評価できないわけです。30億円の物件は、60年かけて劣化しても、少なくとも5億円程度の価値はあるでしょう。
※30億円というのはもちろん例え話です。「お金の価値は変わる」ということを、わかりやすく説明するために出した例です。


収益還元法
収益還元法は「その物件が今後どのくらいの収益をあげられるか」に注目する方法です。収益還元法については下の段落で詳しく解説しています。
取引事例比較法
取引事例比較法は、文字通り「他の取引事例と比較する」方法です。周辺で似たような物件の取引事例を探し「あの物件が○○万円だったんだから、この物件は××万円」という風に査定します。
アバウトなやり方ではありますが、市場の需要と供給を反映しているので、ある程度「実感できる価値」に近いものです。


最近は個人でもレインズなどのデータベースにアクセスできるようになったため、取引事例比較法で出された査定価格が正しいのかどうか、ある程度の計算をできます。
収益物件の売却と利回り
収益物件の売却では、その物件の利回りが特に重要な要素の一つとなります。ここではその理由やポイントを、下のように説明していきましょう。
利回りで価格を決める「収益還元法」は2種類
収益物件の売買価格を決める方法はいくつかあります。その一つが収益還元法です。
収益還元法では、利回りによって価格を決めます。収益還元法には下の2種類があります。
- 直接還元法
- DCF法(ディスカウントキャッシュフロー法)
それぞれの意味・計算方法を解説していきます。
(1)直接還元法
直接還元法は下の計算式で出します。
不動産価格=年間家賃収入÷還元利回り×100
年間家賃収入の意味はそのままです。還元利回りとは「表面利回り」からコストを引いた後の利回りです。
表面利回りとは
これは「粗利」のようなものです。たとえば、下のような状況だったとします。
- 1000万円のマンションを買った
- そのマンションから、毎月10万円の家賃を得ている
これを数字でまとめると、下の通りです。
- 投資金額…1000万円
- 年間収入…120万円
この場合、年間収入は投資金額の「12%」です。このように「年間収入・投資金額」の2つの数字からシンプルに出す利回りが「表面利回り」です。
還元利回りとは
上記の表面利回りは「コスト」を計算していません。毎月10万円の家賃を得ても、毎月の管理コストもかかっているわけです。
そのため「本当の利回り」は、コストも差し引いて計算する必要があります。そうしてコストを引いた後の利回りが「還元利回り」です。
実際に計算してみよう
実際に直接還元法で計算してみましょう。もう一度計算式を書きます。
不動産価格=年間家賃収入÷還元利回り×100
そして、上の式に下の数字を当てはめていきます。
- 年間家賃収入…120万円(10万円×12カ月)
- 還元利回り…10%


この数字を式に当てはめると、下のようになります。
不動産価格=120万円÷10×100=1200万円


この物件の条件を書き出すと、下のようになります。
- 毎年120万円の収入(空室時期がなければ)
- 空室なしなら10年で元が取れる
この条件なら「1200万円で買ってもいい」と思う投資家はそれなりにいるでしょう。このように、直接還元法はある程度「妥当な数値」が出ます。このため、他の計算方法(取引事例比較法)などよりも、収益物件の売却で多く用いられています。
(2)DCF法(ディスカウントキャッシュフロー法)
収益還元法のパターンの2つ目は、DCF法(ディスカウントキャッシュフロー法)です。これも基本の計算方法は「直接還元法」と同じです。
直接還元法との違いは?
違いは「将来の物価」を考慮する点です。
- 直接還元法…考慮しない
- DCF法…考慮する
このように違います。DCF法では下のように考えます。
- まず「○年後にいくらで売れる」という想定をする
- そこから逆算する
- たとえば「2030年に1000万円で売れる物件は、今買うといくらが妥当か」と計算する
上の例なら「10年後も1000万円で売れるなら、今1500万円で買ってもいいかな」と思う人もいるでしょう。そのような方法で計算するということです。


あくまで予想なので、たとえば大震災で一部が崩れるなどすると、この計算も大幅に変わってしまいます。しかし「将来の価値から逆算する」という点は理解できるかと思います。
物価・インフレを考慮する
先ほど「物価を考慮するのが違い」と書きましたが、上の説明ではその意味がわからないでしょう。


マンションの価格は、先に書いた通り「値下がり」していきます。この値下がりは「値段の変化」ですが、値段の変化は築年数だけで起きるわけではありません。「物価の変動」によっても起きるのです。
例えば、日本で初めての分譲マンションとして登場した「宮益坂ビルディング」(1953年)は「天国の百万円アパート」と呼ばれました。実際に値段が100万円だったかはわかりませんが、当時の初任給を見ると、おそらく本当に100万円前後だったと思われます。

現在の大体30分の1なので、100万円のマンションは3000万円の価値だったということですね。そのため、本当に100万円だったと思われます。
何にせよ、このようにマンションの価値は「物価の変動によっても変わる」わけです。それも考慮するのがDCF法です。
収益物件の売却の消費税はかからない
収益物件の売却で消費税はかかりません。理由やポイントを解説していきます。
消費税は事業者が払うもの
まず「消費税は誰が払うのか」というと「事業者」です。個人ではありません。
収益物件の売却を「事業」として行うなら課税される可能性があります。しかし、多くの人は「個人」として売却しているでしょう。その場合は消費税が「非課税」ということです。
事業者の中の「課税対象事業者」にかかる
さらに言うと、事業者のすべてに消費税がかかるわけではありません。「課税対象事業者」となっている事業者だけです。
(この「課税対象」というのは、消費税のことです。他の税金のことではありません)
「課税対象事業者」の条件
これは簡単にいうと「売上1000万円以上」です。売上が1000万円を超えると、その2年後から強制的に「課税対象」になります。


このように売上1000万円を超えるまでは、ほとんどの事業者が「免税事業者」です。その状態で収益物件の売却をするなら、消費税はかからない可能性が高くなります(何らかの理由でかかることはあり得ます)。
業者の仲介手数料の消費税はかかる
業者に仲介してもらって収益物件を売却した場合、その業者に仲介手数料を払います。この仲介手数料には消費税がかかります。
(その業者が免税事業者であればかかりませんが、不動産会社のほとんどは課税対象の事業者です)
この消費税については、普通のサービスの消費税と同様、払うことになります。
まとめ
以上、収益物件の売却について解説してきました。最後にポイントをまとめると、下のようになります。
- 物件の特性に見合った業者に相談する
- 一括査定は多めに受ける
- デッドクロスの前など、売るべきタイミングがいくつかある
- かかる費用は仲介手数料・司法書士報酬など
- 税金は譲渡所得税・住民税・登録免許税などがかかる
- 消費税はかからない
収益物件の売却は、やり方次第では数百万円の利益を手にすることもでき、逆に失敗すれば数十万円や数百万円の損をすることもあるものです。それだけに、当記事に書いたような知識を参考にしながら、しっかり業者を選んで売るべきタイミングを見極めていただけたらと思います。